2018年2月23日金曜日

画像の暴力


フィリピンではこのところ毎日のように報道が続く、中東・クウェートへの海外出稼ぎ労働者(OFW Overseas Filipino Workers)虐待と、それに伴う渡航禁止措置、緊急帰国の一連の事件。クウェートに限らず、昔からOFWは、劣悪な労働条件や犯罪の被害、その逆に犯罪者として処罰されるなど、ずいぶんと苦しい状況に置かれてる人が多いと言われています。

今回のケースが異例だったのは、フィリピン人家政婦が、レバノン人雇用主宅の冷蔵庫から遺体で発見されたという残虐性。レイプや殺人だけでもひどい話なのに、これは耳を塞ぎたくなります。ドゥテルテ大統領が「フィリピン人は奴隷ではない」と激怒して、すぐに同国からの帰国用チャーター便を、無償で用意したのも当然の反応。

先日、四旬節(イースター46日前から始まる準備期間)最初の日曜日、私たち家族で与ったミサの最後でも、神父さまがこの話題に触れ、OFWを祝福するため、家族に該当者がいる人は祭壇の前へと促したところ、何とチャペルに集まった信徒の半数以上が進み出ました。

家内の親戚や友達など、私が知っている人で、昔外国で働いてたとか、今も現役のOFWは何人もいる。しかし、実際にこういう光景を目にすると、フィリピンの海外出稼ぎへの依存度の大きさを、改めて思い知らされます。

私のようにフィリピンに住んだり、フィリピン人配偶者を持つ人ならば、こうした出来事に憤りを覚え、OFWの悲劇を一人でも多くの日本人に伝えたいと思うでしょう。その気持ちは分かるのですが、勢い余って、負傷者や遺体の写真をSNSに投稿してしまうのは、ちょっと待ってほしい。

たまたま私が閲覧していた、フィリピン関係の掲示板。いきなり目に飛び込んできたのは、激しい暴力を受けたと思われる、顔じゅうアザだらけのフィリピン女性の写真。起き抜けにこれは勘弁願いたい。お陰で、その日はずっと気分が落ち込んでしまいました。

報道を制限しろとか、現実から目を背けろと言っているのではありません。文章だけならば、まだ心の準備もできるし、途中で読むのを止めることもできるけど、ニュースサイトでもないのに、警告なしで残酷な写真アップは、いくらなんでもマナー違反。出合頭の交通事故に遭った気分です。

テレビにしてもネットにしても、この種の画像を使用する場合、必ずワンクッション置いて、見たくない人はチャンネルを変えるなりの選択の機会を提示するのが、当然のルール。誰がどういう状況で見ているか分かりませんからね。

実は私、小学4年生の時に、中沢啓治さんのマンガを見て、強烈なトラウマを抱えてしまった経験があります。広島で被爆した中沢さんが、自らの体験を元に描いた、反戦・反核マンガとして有名な「はだしのゲン」。私がたまたま目にしたのは、その前に描かれた「ある日突然に」という短い作品。はだしのゲンと同様、原爆投下後のむごたらしい描写の連続。単行本ではなく、雑誌に掲載されたものでした。

40年以上経ったのに忘れもしない、友人宅でそれを読んだ直後から気分が悪くなり、その日は晩ご飯も食べられず、眠ることもできず。母親にずいぶん心配させてしまいました。以後数年は、子供なのに時々不眠に悩むほど。大人になってからも何年かに一度は、悪夢にうなされます。

今思えば、あの内容が少年誌にそのまま載ってしまうのは、問題だったでしょうね。原爆体験の手記は、文章だけでも衝撃が強い。ましてや絵や写真になれば、閲覧者はせめて高校生以上に限定して、さらに見る前の確認は必須だと思います。

知る権利があるのと同時に、見たくないものを見ない権利もある。不快感をもたらす画像は、見せ方を間違えると暴力になってしまう。SNS上で、それが理解できない人とのお付合いは、とても無理。従って、前述の写真投稿者は、即刻ブロックするしかありませんでした。


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