2018年7月26日木曜日

深い軒には意味がある

十日ほど前に書いた、台所の一部に屋根を増設するリノベーションについて。既にトタンを葺き終わり塗装もできて、あとは雨樋と軒天井の取り付け作業を残すのみとなりました。これは台所に付属した広さ約2畳ぐらいの、フィリピンではダーティ・キッチンと呼ばれる土間のような部分に軒の深い屋根を被せるというもの。

今は雨季。しかもフィリピン沿岸を通過する台風の影響で大雨。工事は何回か中断したので進捗も遅れ気味。でもそのお陰で、リノベの目的である雨の吹き込み効果を十分確かめることができました。

壁からが1.2メートルと、かなり深めの軒にしたのは正解だったようで、天の底が抜けたような豪雨でも、ほとんど吹き込みは気にならないぐらい。さらにスコールが去った後の強い日差しも遮ってくれるので、暑さもだいぶ和らぎます。




ここシライには、市によって保存されている、100年前の二階建て住宅が何軒かあります。それを見ると、一階より二階が大きく、そこからさらに軒の深い屋根がある。下はコンクリート造りで上は木造。構造的に無理がない範囲で、やや頭でっかちなシルエット。自宅のリノベをして、この二重に軒を深くする工夫の意味が、やっと実感できました。


熱帯のフィリピンでは、室内の日当たりの良さは、早い時間の朝陽を除けば、まったく価値が認められません。だって年中紫外線がキツいし、初夏〜真夏〜梅雨の繰り返しの気候。下手に日差しが入るような設計にしたら、無意味に暑いだけ。

そして赤道が近いので、冬至と夏至の昼間時間差もせいぜい1時間。南だ北だと家の向きを気にする人もあまりいない。敢えて言うなら、西陽を避けるぐらいでしょうか。ただし、直射日光はなくても、窓を大きめにするのは風通しの点で有効なやり方。

つまり理想的な南国の家は、できるだけ深い軒に、大きな窓がたくさんあって、天井は高く部屋は仕切らない作り、ということになります。窓に深い庇をつけた体育館みたいなもの。

でも現代のフィリピンの状況を考えると、あまり大きな窓だと、空き巣や強盗の侵入経路になりかねない怖さがあります。また、大金持ちの豪邸クラスならともかく、一般庶民向けの建売住宅の場合、部屋数、つまりベッドルームとCR(コンフォート・ルーム、トイレ・シャワーのこと)の数が多いほど売値が上がる傾向。なので、風通しを犠牲にして壁だらけの間取りが多い。

こうなると、いよいよ軒の深い屋根や庇が大事に。それなのに最近の個人住宅では、たまに屋根も庇も小さいものがちらほら。何となくモダンでお洒落に見えるからなんでしょうけど、これは完全に浅はかな建築屋に騙されてますね。

ちょっと強い雨だと、窓の近くに置いてある家具はびしょ濡れ。晴れた日は暑すぎて、風があってもカーテンを閉めるしかなく、エアコンなしでは過ごせない。実際に暮らしてみれば1ヶ月もしないうちに、住み難さを感じるはず。


そういう訳で、今日は、昔ながらのスタイルにはちゃ〜んと意味がある、というお話でした。


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