2024年12月5日木曜日

戒厳令 怖い

 前回、政治向の話が続いたので軽い話題を...と言った舌の根も乾かぬうちに、韓国でたいへんな騒ぎが起こってしまいました。フィリピン人にもトラウマになっている「戒厳令」が、21世紀になって25年近く経った今、再び人々の耳目を集めることになろうとは。

フィリピンでも、Kポップや韓国発のネットフリックスドラマは人気です。さらに、たくさんの韓国人観光客が押し寄せるため、日頃から韓国への関心はとても高い。さらに偶然ながら、ちょうど1960〜80年代に、戒厳令を悪用したリーダーによって国民が苦しみ、80年代の中頃に民主化を果たしたという共通体験があるせいか、この事件もテレビやネットで大きく報道されました。家内も夜中までスマホ片手にニュースを追いかけてましたね。

結果的には、大統領の暴走、あるいはクーデターとも言える戒厳令は、国会によって否決され、一夜明ければ戒厳令解除。おそらく大統領は早晩、その職を追われることになるでしょう。NHKのインタビューに応えた、神戸大学教授の解説によると、政治的に追い詰められた大統領が、周囲をイエスマンだけで固め、現実的な思考ができなくなり、北朝鮮の謀略が背後にあると本気で信じて、今回の暴挙に至ったのではないか、とのこと。これでは、YouTube動画で陰謀論を妄信してしまう、そこら辺のジイさんと同じです。

もちろん大統領一人の思いつきではなく、軍や警察など治安に当たる組織の上層部が同調したのは間違いないんでしょうけど、フタを開けてみてば、現場の指揮官が見事にトップの思惑を裏切り、あっさりと国会に議員を入れてしまったのが失敗の原因。まだ光州事件の記憶も生々しいですから、ある意味当然の結果だったのかも知れません。

かたやフィリピンも、決して他所事ではありません。こっちは副大統領のサラ・ドゥテルテが、大統領の暗殺を仄めかし、弾劾を受ける状況となっているし、10年近い戒厳令で独裁をほしいままにしたマルコスは、現大統領の実父。韓国が、国会でのブレーキはあったとは言え、戒厳令発布の権利を大統領に残したままだったのに驚きましたが、ここフィリピンでは、つい数年前にドゥテルテ前大統領が、ミンダナオ限定ながら戒厳令を出したばかり。こちらも、やろうと思えばできる状態なんですよね。

もし同じようなトップの暴走があった場合、フィリピンではそれを止める安全装置的な法律やシステムはあるんでしょうか? 家内曰く「よう分からんけど、最近はアホが多いから、たぶん止まらんと思う」だそうです。怖ぁ。韓国人と違い、歴史から学ぶのがあまり上手とは言えないフィリピン人。マルコス独裁の苦い経験を、若年層に伝えることに見事に失敗してますからねぇ。

そしてわが母国の日本。高校の日本史で、日本で戒厳令があったのは、関東大震災と二・二六事件だけと習いましたが、今回ネットで調べてみると他にもいくつか例があり、かつ、韓国やフィリピン、その他外国と比べたら、厳密な意味での戒厳令とは違うらしい。ただ少なくとも、今の日本国憲法下では皆無。

しかしながら、隣国でこういうことがあると、やはり気になるのが改憲の動き。一般的な解釈として、現行憲法では国による戒厳令を認める「国家緊急権」は無い、とされているんですが、自民党による改憲草案には「緊急事態条項」が盛り込まれ、私個人としては「これはヤバいんじゃないの?」と思いました。

もし緊急事態条項が実現してしまうと、今回のような衆議院での与党過半数割れがあった場合、総理大臣が血迷って「これは某国の陰謀だ、緊急事態だ!」となる可能性も否定できません。今回の韓国での騒動を見て、その思いを強くした次第。

ちなみに、数年前のコロナ禍による緊急事態宣言を、戒厳令と同じだと勘違いしている人がツイッターなどで散見されますが、まったく違います。本気の戒厳令なら憲法が一時停止されて、国家が危険人物と認定したら、その人は即拘束されて軍事法廷送りですからね。


2024年12月2日月曜日

うちのメイドはお金持ち

 今年も残り1ヶ月を切りました。日本ではそれなりに寒くなり、師走の慌ただしい雰囲気になってるんでしょうけど、常夏のネグロスでは相変わらずの季節感ゼロ。9月からクリスマスシーズンのフィリピンでは、今頃になるとすっかりダレダレで、今更年末と言われてもなぁ、という感じです。ツリーを出すのが周囲に比べると遅めの我が家でも、すでに1ヶ月が経過。例年クリスマス明けどころか、1月第2週ぐらいまでは出しっ放しなので、都合2ヶ月半もツリーを眺めることになります。

ところで最近は、選挙や政治、自然災害などのシリアス・ネタが多い当ブログなので、今日は軽い話題を一つ。

メイドとして我が家で働き始めて、かれこれ2年のグレイスおばさん。私よりちょうど10年若い52歳で、わりと最近まで中近東で10年に渡るOFW(海外フィリピン人労働者)を経験した苦労人。その稼ぎで二人の子供を立派に育て上げ、孫も一人います。娘さんのエイプリルは、何を隠そう私のイロンゴ語家庭教師で、息子さんはマニラで働いていて、もうすぐ結婚されるとか。

さてこのグレイス。長年の出稼ぎでの貯金があるのか、あるいは息子さんの送金額が多いのか、一般的にメイドをやってる人に比べれば、経済的には余裕がある。まず着てるものからして、前任者のライラとは大違い。日替わりで、派手なシャツやらスパッツで登場。バッグや時計も安物ではなさそうだし。

出勤前は市役所前の市民広場で、ママさんズンバで一汗が日課のグレイス。露出度の高めのズンバ・ウェアでやって来て、うちのシャワー・トイレ室でお色直しをします。年齢的にも体型的にも、ちょっとイタい感はあるんですが、グレイスに限らずフィリピンのオバちゃんは、そういうことは全然気にしない。

ちなみに、グレイスとエイプリル、その子供の3人は、シライ市内に同居。一昨年、エイプリルは離婚(フィリピンでは法的な離婚 devorce が不可で、別居 separate と称してますが、事実上の離婚)したので、ひょっとする小学生の子供への養育費も、かなりあるのかも知れません。

そんな、一見有閑マダム的な行動パターンだけでなく、買い物を頼んで、少しお金が足りない時など、自分の財布から建て替えたりもするし、日当350ペソに1,000ペソ出しても、ちゃんとお釣りを持っている。もっと驚くのは、たまに家内がうっかり日当を払い忘れても黙って帰って、翌日すまなそうに「昨日、お金もらってないんですけど...。」

ライラだったら想像もできないんですが、要するに懐に余裕があって、現金への執着があまりないらしい。そう言えば、たまにセブやボラカイにバカンスに行くと言って休みを取るなぁ。さらにエイプリルは、毎日のように隣街の州都バコロドに出かけて、友達とお茶やお食事。(それを全部フェイスブックに投稿)

決して浪費してる感じじゃないけれど、どう見てもメイドとその家族の暮らし向きではないんですよね。そう思うのは私だけじゃなく、グレイスの妹で、同じく私の家庭教師であるバンビも驚くほど。

じゃあなぜ、そんなに高くもない給金でメイド業に勤しむのかと言うと、毎日何もせずに家にいたら精神衛生に良くないから。もちろん「お金持ち」はネタで、実際に住んでる家は狭くて古いし、車もない。せいぜい「贅沢しなければそこそこの暮らしができる」程度なので、1ヶ月7,000ペソ(約2万円弱)でも大いに家計の助けにはなっているはず。趣味で働いているわけではありません。

実際の働きぶりも、元来真面目な性格なのか、頼んだことはキッチリこなします。まぁ、余計なことをしないのは、メイド業の基本なのかも知れません。それに加えて、お金に対して淡白なので、数千ペソぐらいなら任せても安心。

メイドと聞くと、つい貧困層出身者をイメージしがちですが、まだまだ格差は大きいながら、10年以上も続くフィリピンの経済成長。コロナ禍を乗り越えての復調ぶりも確かで、低所得者と中間層の間に、以前には見られなかった幅広いグラデーションがある気がします。たぶん、1960〜70年頃の日本も、こんな感じだったんでしょうね。