多少フィリピンに関わった経験がある方なら、フィリピン=海外出稼ぎ大国というイメージを、お持ちでしょう。
子沢山のフィリピンで、家族の中の誰かがフィリピン国外で働いて、残った家族に仕送りしているなんてのは珍しくありません。こういう人たちは、総称として、OFW(Overseas Filipino Workers / 海外フィリピン人労働者)と呼ばれます。
中には、最初の一人が外地で経済的にそこそこ成功した後、その親や子供を呼び寄せて、丸々一家族が出ていってしまう例さえある。
何を隠そう、シカゴに行った家内の叔母と従兄弟姉妹がこのパターン。途中で帰国したり、亡くなった人はいるものの、叔母夫婦とその娘二人と息子、それぞれの配偶者、シカゴで生まれの一人を含めて子供が3人(つまり叔母の孫)の、累計で10人もの親類が移住。もう一人別の従弟も、渡米して看護師職に就くべく、ネグロスの総合病院に勤務して資格取得中。
ちなみにこの人たち、大人は全員が看護師。そのシカゴでの暮らし向きはと言うと、フィリピンにある実家の数倍のサイズの家に住み、自家用車を保有して、時々家族旅行も楽しんでいる。日本で同じ仕事をする人より、ずっと余裕のある生活をしていると思われます。
家内も、私と日本で暮らした15年間のうち、3年ほどは子供の英語教師として働いて実家に送金してたので、事実上のOFW。そして、我が家のメイドは、今働いているグレイスと前任のライラの二人が、中近東でのOFW経験者。もうOFWがいなくては、国の経済が成り立たないほどの盛況ぶりです。
ただ、その多くが最初から望んで海外に出たわけではなく、フィリピン国内で就職先がなかったり、給料が安過ぎて家族を養えないなどの理由で、仕方なくそうなっている。そして医師や企業の管理職などの給与の高い職業に就ける人は一握りで、ほとんどがメイドや建設現場の労働者、タクシー運転手など。それでも母国に留まるよりは、はるかに稼ぎは良いんですが。
そしてその海外出稼ぎが、とうとう日本にまで波及してきました。
ひと昔前は、海外で働くと言うと、大企業の海外赴任だったり、世界レベルの才能や技能を持つエリートと思われがちでした。ところが最近ではそれも様変わり。私がリアルに知っている、フィリピンで働く日本の若い人たちって、みなさん優秀だとは思いますが、決して常人の及ばない天才ではありません。
英語にしたところで、帰国子女で最初からペラペラという人はいなくて、みんなコツコツ努力して、現地で揉まれながら仕事ができるレベルに到達。それでもちゃんと生活できてるんですよね。
重要なのは、日本のような常態化した深夜残業や、長時間の満員電車通勤とは無縁で、理不尽な暗黙のルールもない。もちろんフィリピン特有の、時間やお金にルーズと言った労働者の質の問題はあるものの、うつ病や、自殺にまで追い詰められるようなストレスはない。
さらには転職が珍しくないので、嫌なら辞めたらいい。いろいろあってもほとんどの人は、日本で再就職する気はない、と言われますね。本気で起業して、経営者を目指すなら、かなりの苦労はあるでしょうけど、それは日本でも同じこと。
いまだに日本では、わざわざ失敗した例ばかり集めて「海外出稼ぎの落とし穴」とか「海外は甘くない」と、恐怖心を煽るような記事が多い。これは私のような、退職後の海外移住に際しても同様の脅し・煽りがつきもの。特にフィリピンは、必要以上に悪いイメージが流布されてますからねぇ。
それでも今後の日本の経済状況が、一気に1980年代レベルまで回復するような奇跡でも起こらない限り、海外に仕事や生活の場を求める人は増えるでしょう。だって、そっちの方がストレス少なく、楽に暮らせるし。
何もいきなり人生を賭して、失敗は許されない!なんて気張る必要もありません。ダメだったら日本に戻ればいいだけのこと。実際、コロナ禍で一旦Uターンして、またフィリピンに戻った人もいます。要するに、就職先の一つの選択肢として、日本以外の場所もあるというだけのお話。
実際この10年ほどで、長期滞在と永住を合わせて、海外在留邦人の数はざっと135万人と倍近くに増えています。コロナ禍でここ2年は減りましたが、私の勘では、大きな流れは変わりそうもないし、この数年ぐらいでさらに伸びが加速するんじゃないでしょうか。
ひょっとすると、これから日本経済を支えるのは、OFWならぬOJW / Overseas Japanease Workers なんてことになるのかも知れません。これは、出ていった働き手が、日本に送金してくれることが前提なんですが。