2017年6月7日水曜日

「フィリピンパブ嬢の社会学」を読んで


先日の一時帰国の際、数年前にネグロス島で知り合った日本人女性のAさんと、久しぶりに話す機会がありました。Aさんとは、我が家の近所を拠点にするNGOで働いていたのがご縁。帰国してからも、フェイスブックで交流があったり、このブログを読んでいてくれたりで、親しくさせてもらっています。

その彼女が、別れ際に貸してくれたのが、この本「フィリピンパブ嬢の社会学」。今は日本在住のAさんは、その後もフィリピン関連の仕事をしていて、やっぱりこのタイトルは気になったようです。私もネットを通じて、こういう本が出版されたことは知っていて、フィリピンに戻って早速読んでみました。

率直な感想としては、読み物としてはとても面白い本。恋人のフィリピン人女性ミカの処遇を巡り、ヤバい筋のマネージャーに話をつけに行くエピソードを始めとして、偽装結婚に頼らざるを得ない、現在のフィリピンホステス集めの現状など興味深く読みました。実は私、日本のフィリピンパブには、一度も足を踏み入れたことがないもので。

そして、読み始めて感じたのは、まるで久しぶりにゲームセンターを覗いたら、まだインベーダーゲームに夢中になっている人がいた!みたいなもの。しかもゲームをやっているのが同年輩ではなく、私の子供と言ってもいいぐらいの、二十歳そこそこの若者。

フィリピンパブにハマるのは、中高年以上の男性との常識を覆して、平成生まれの著者が、フィリピンにのめり込んでいく姿は、確かに一読の価値はあるし、この本の「売り」でもあります。その意味では、著者が意図したかどうかはともかく、マーケティングは大成功と言えるでしょう。

しかしながら、現在50代の私にとって、水商売のフィリピン女性と恋愛関係になり、いろんなトラブルに巻き込まれるという話は、それこそ前世紀の遺物。30代の頃にマニラに足繁く通い、だいたいのことは経験したので、「まだそんなことで騒いでいるの?」と言いたくなるのも正直なところ。

また、以前このブログでも書いたように、ホステスとして日本に渡ってくるフィリピン女性は、かなりの貧困層の出身者であることが多い。敢えてその中からパートナーを選んでおいて、実際に彼女の家族やフィリピンでの生活を見て、驚いたり憤ったりするのは、少々世間しらずな反応。

さらには、国際線のフライトに乗り遅れたり、出稼ぎのお金をあっと言う間に浪費してしまう様子ばかりにスポットを当てる描写は、時間にルーズでお金に汚いダメなフィリピン人像を、ことさらアピールしているようにも感じます。

もちろん、著者の中島弘象さんが、ご自分の経験を正直に綴った内容だということに、疑念を呈するつもりはありません。ただ、同じフィリピン人が見ても、ひどいなと感じるであろう事柄や人々が、まるでフィリピンの代表のような印象を与えてしまうのは、残念。

あとがきの執筆者であり、この本を世に出した立役者だと思われる、松本仁一さんという方は、昭和17年生まれで、朝日新聞のアフリカのナイロビ(ケニア)支局長だったこともある方。ジャーナリストとして数々の受賞歴もあるそうです。松本さんが原石を探し当てる目はさすがと言うべきで、確かにこの本には読者を引っ張る力がある。

それだけに、20年以上もフィリピンに関わり、フィリピン女性と結婚し、現在フィリピンに住んでいる私としては、いまだに日本人がフィリピンに関心を持つきっかけが、フィリピンパブや貧困に偏っていることには、少々うんざりしてしまいます。この国には、他にもいろいろな面白い側面があるんですけどねぇ。


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