2020年5月9日土曜日

フィリピン最大の放送局停波


日本を含むフィリピン国外もで、かなり大きく報道されている、ABS-CBNの停波。コロナ騒ぎ以前から、ドゥテルテ大統領との確執が話題となり、停波の話は出ていましたが、まさか、この近年稀に見るほどの世界的大事件のコロナ禍の真っ只中、報道の重要性が一番高まっているタイミングで、最も情報発信力に優れた放送局をシャットダウンするとは思いませんでした。

表向きだけで言うと、フィリピン憲法で禁じられているマスメディアへの外国資本参入に抵触しているとして、放送免許の更新が認められず、免許の期限が切れる2020年5月4日に、国家放送委員会によって停波が命ぜられたということらしい。

ただ、これを額面通りに信じている人は誰もいなくて、選挙時から一貫してドゥテルテの政治手法を批判し続けてきた、同局への報復であることは、間違いないでしょう。

民主国家の常識から考えて、やっぱりこれは大統領にとって悪手だったでしょうね。いくら自分に批判的だからと言って、メディアそのものの口封じをすれば、独裁だと非難されるのは当然のこと。

しかもこれは、最初のメディア弾圧ではなく、昨年(2019年)、同じく大統領の政治手法を批判してきた、ニュースサイトのラップラーの編集長を、名誉毀損を理由に逮捕したり。

ドゥテルテさんにしてみれば、少し前に、長年に渡って何億ペソもの空港ターミナル使用料を滞納してきたフィリピン航空に対して、ターミナル閉鎖の荒療治で対応したのと同じ。ナメられたら黙っていない、やると言ったらやる、という強い意思の表れ。

もう少し深読みすれば、たとえ独裁だと言われても、麻薬撲滅や連邦制の導入など、大統領任期中に、何がなんでも道筋をつけたい。邪魔する者は、誰であっても排除する。任期満了後は、投獄や暗殺されても構わない、ぐらいの勢いなのかも知れません。

もう一つ付け加えるならば、今回のABS-CBNの停波を、当然の報いだとする意見も、国民の中に一定数あるらしい。ドゥテルテ支持の家内によると、ABS-CBNの報道姿勢は、大統領批判以外にも、かなり偏向していたとのこと。

また、移住以来の友人で、イグレシア・ニ・クリスト(フィリピン発祥のキリスト教系の新興宗教)の信徒であるティン・ティンは、同局が彼女の属する教団に対して、偏見に基づいた報道をしているとして、ABS-CBNボイコット運動に参加していました。

以上、人伝てや私の推測を並べただけなので、実際のところはどうなのか、分からない。たとえ分かったとしても、この国に住まわせてもらっている一外国人の私が、どちらかを声高に非難、あるいは擁護する資格はありません。

ABS-CBNのことを、フィリピンのNHKみたいな存在と思っている日本人もます。この投稿を書くに当たって、その歴史を調べてみたら、NHKが視聴料による独立採算ながら、事業予算や経営委員の任命に国会の承認が必要なのとは違い、純然たる民間放送局。

マルコス治世の戒厳令下では、施設を政府に接収され、当時の社長ジェニー・ロペスが、5年間の獄中生活を経てアメリカに亡命。エドゥサ革命後にロペス氏が帰国して以降、一から再建して、現在のフィリピン最大のメディア企業となりました。

さて、いずれにしてもフィリピン憲政史上の大事件とも言える、今回の停波命令。予定調和的に、一定期間を経て、放送免許が更新されるのか、それとも、少なくともドゥテルテの任期が続く限り、停波措置が継続するのか。しばらくは、目が離せない状況ですね。


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