2023年8月31日木曜日

金のために働いて何が悪い

 もちろん皆さん、お金のために働いてるんですよ。お金のため「だけ」でもないでしょうけど。そりゃ、給料も報酬も利益も何にもなければ、誰も働きませんって。ボランティアっていうのもありますが、あれは飽くまで期間限定の人助け。

そして常識で考えれば、労働の対価が高ければ高いほど、アウトプットは良質になるもの。マカティにある最高級ホテル、ザ・ペニンシュラのスタッフと、シライ市内のセブンイレブンのレジの対応にある差は、もらってる給料の差ということです。当然ながらペニンシュラとセブンでは、就職するのに何十倍・何百倍も難易度が違います。

私の住むフィリピンの場合、この法則が露骨なほどで、それなりに高額な支払いを見込まれる顧客に対しては、こっちが恐縮するほどのサービスぶり。例えば銀行。移住に際して、退職金を全額フィリピンの銀行口座に送金して、キャッシュカードを作るためにシライ支店に家内と二人で出かけたら、支店長自らが、揉み手をせんばかりの丁寧な対応。これは別室で...とかじゃないんですよ。窓口で待っている他のお客さんから見えるところでの話。

日本の銀行でも預金者への態度は丁寧ですが、預金額でこれほどの極端な差をつけるのは、あんまり聞いたことがありません。むしろ、高島屋や阪急百貨店と近所のコンビニのお客さん扱いに、それほど大きな違いがないという事がすごい。海外からのインバウンド客が驚いたり感動するのも無理はない。なので、たまに一時帰国すると逆カルチャーショック。

給料が安くても仕事をキチンとこなすのは、日本人の美徳だとは思うものの、それも度を過ぎると害悪。最近は勘違いした中高年の客、つまり私の同世代のオっさんが、バイトに怒鳴りつけたり土下座謝罪を要求したり。まぁ実際には、それほど多くはないんでしょうけど「日本の常識は世界の非常識」の典型的な事例。

そこへ付け込むのが「やりがい搾取」や「ブラック会社」。すごく高給なら、心身をすり減らすような激務に耐えるのも分かりますが、安月給で過労死するまで働く人が後を断たないのは、日本の社会や教育に構造的な欠陥があるとしか思えません。同じ会社に28年も在籍して鬱を病んだ私が言っても説得力はないけれど、少なくとも業界平均よりは良い給料をもらってましたし。

なぜそうなっちゃうのかと言うと、金は汚いもので、給料の多寡で働きを変えるのは恥ずべき行為、みたいな変な感覚が残っているのが、背景にあるんじゃないか。これをそのままフィリピンに持ち込んだ日本人起業家が、現地従業員を雇ったはいいけれど、せっかく一から仕事を教えて育てたのに、すぐにライバル会社に転職した、と憤慨したりする。

当のフィリピン人にすれば、仕事を教わるのはビジネスの一環で、在籍期間の長短に関係なく、給料が良い会社へ移るのは当たり前。キャリア形成のために転職を繰り返すのが常識なんですから。むしろいつクビになるか分からない不安定な立場だし、そこに義理人情を持ち込まれても困るでしょう。もちろん辞め方がドン臭くて、ちゃんと辞職の手続きしてないのにバっクレて、他で働き始めるのは良くないですけど。

日本では、ごく最近になってようやく、身を守るためにさっさとブラックな職場から退職すべきで、キャリアアップのために転職は罪悪ではないという雰囲気が醸成されているのは喜ばしい限り。ただ、民間企業はそれで良いとしても、問題は教職や医療関係者。特に先生に対する仕打ちは、フィリピンからネット経由で漏れ聞こえる範囲では、相当ひどいらしい。

実は私も知らなかったんですが、公立校の教師には残業手当が付かないですってね。そんな状況で、夜遅くまでクラブの顧問をやらされたり、親からの苦情を対応させたり。ちょうど今も、プールの水道閉め忘れた責任で、その先生と校長に水道代95万円を請求したと、ネットで話題になってます。

こんなことしてたら、若い人は教師を目指そうなんて思わなくなるし、教員不足は当然の帰結。それでも政府は、教員免許がなくても教えられる人を増やすとか、教員採用試験の年齢制限を撤廃するとか小手先の対応に終始。頑ななまでに「労働環境の改善」「給与の増額」と言った、根本的かつ常識的な対策を拒んでます。史上最高額の税収があって、史上最高額の国家予算を組んでいるのに。

同じように、教師・医師を含む高学歴労働者や、公務員・警官の給与を長年ケチったフィリピンでは、能力のある人材はどんどん海外に流出し、公的機関のスタッフは賄賂を要求するのが当然の状況になってしまったのは周知の通り。

日本の場合は、賄賂天国になるとは想像しにくいですが、すでにタクシーや運送会社の運転手さんが人手不足。赤字の鉄道路線を廃線にしたくても、代わりのバス運転手が見つからない地域もあるそうです。若干様相は違っても、かつて「東南アジアの病人」と揶揄されたフィリピンの二の舞になりかねません。

フィリピンでは、お金が無くて満足な医療サービスが受けられないのが、数年後の日本では、医師や看護師の数が足りなくて入院できなくなる、なんて空恐ろしい想像をしてしまいます。

ということで、書いているうちに腹が立ってきて、少々感情的な長文になってしまいましたが、国家としての品格を保つためには、どんな職種であっても、国民が楽に生活できて家族を養えるだけの収入が必須という、当たり前の話でした。



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