2015年1月24日土曜日

実録 イメルダ・マルコス



日本にいた時に買って、ずっと未読のままになっていた本をようやく読了しました。フィリピン人記者カルメン・ナバロ・ペドロサによって書かれたイメルダ・マルコスの伝記「実録 イメルダ・マルコス」(発行 株式会社めこん/原題 The Untold Story of Imelda Marcos)。

フィリピンで、イメルダやその夫でかつての大統領だったフェルディナンド・マルコスの名前を知らない人は、若い層でもいないでしょうが、日本ではどうなんでしょうね? 私が大学を卒業して新入社員だった1986年の「エドサ革命」で失脚し、夫と共にアメリカに亡命した一連の騒動は、まるで映画でも見ているようで、日本でも詳しく報道されました。

20年にも渡り、事実上の独裁政権でフィリピンを支配し、戒厳令を出しっ放しにして言論・報道の自由も著しく制限。政変後、フィリピン国民の間では、飼い犬にオスならば「マルコス」、メスならば「イメルダ」と名付けることが流行ったそうです。因みに家内の実家で飼っていた雄犬もマルコスの愛称を意味する「マッコイ」でした。

子供っぽい話ですが、大統領就任直後はともかく、政権の最後の頃はよほど嫌われてんでしょうね。亡命後のマラカニアン宮殿(大統領公邸)から見つかった、イメルダが買い集めた1000足を超える靴の話は、今でも語り草。「イメルダの靴」といえば、フィリピンでは強欲の代名詞になってしまいました。

さてこの本は、イメルダの祖母の時代から始まって、幼くして母を亡くし、貧困や腹違いの姉との不和などを経て、大統領夫人となるまでを当時を知る人たちの証言を元に書き上げた労作です。外国人の私からすると、戦前のフィリピンの暮らしぶりや、イメルダが住んだレイテの州都タクロバン、首都マニラの昔の佇まいを知るための貴重な一冊となりました。

何よりも、まだマルコスが大統領になったばかりの1969年に、暴露とまではいかないにせよ、権力者の過去を描き切った著者ペドロサ氏の度胸は、賞賛に価すると思います。案の定、マルコスとイメルダの逆鱗に触れたようで、著書は発禁扱いになりペドロサ氏もアメリカに移住し、その後の消息は分からないとのこと。

それにしても若いころのイメルダの美貌と歌声は、並外れていたらしい。フィリピンではルックスの良さと歌や踊りの芸が達者な人が選挙に勝つというのは、現在のバランガイ(町内会みたいなフィリピンの最小行政単位)の選挙でも変わってませんが、まさにそれを国家単位で証明したようなもの。

マルコス自身をして、妻イメルダのおかげで少なくとも100万票は上乗せしたと言わしめるほどの影響力で、大統領就任演説にはマルコスの話を聞くためではなく、イメルダを見るために群衆が集まったと言われています。夫マルコスの死後、フィリピンに戻ったイメルダは、なんと80代の半ばの今でも現役の下院議員。ものすごい人ですね。


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