外国語の発音、特に英語に関しては、苦手意識を持っている日本人は多いと思います。よく例に持ち出されるのが「L」と「R」。乳児の頃からフィリピン人の家内が、英語絵本の読み聞かせをして、7歳でネグロス島に引っ越した、今中学生の息子。さすがにこの聴き分けは完璧で、最近は、テレビでCNNを観てる時の通訳をやってもらうぐらい。
一般のフィリピン人も、小学校から英語の正規教育はあるし、ハリウッド製のドラマや映画が溢れているので、聴く方も喋る方も、きちんと区別してます。
もちろんアクセントは、英語・米語のネイティブとはちょっと違う、フィリピン訛りなんでしょうけど、社会人になるまで日本国外に出たことのなかった私にすれば、むしろ聴き取りやすい。
そもそも国内で、意思疎通が難しいぐらい違う方言があり、日常会話の中に、英語やスペイン語の単語がとても多いフィリピンの言語環境。外国語習得に関しては、日本人ほど苦労しなくて済む人が多い。家内の場合、母語は西ネグロス方言のイロンゴ語で、公用語の英語とタガログ語は、ネイティブスピーカーに褒められるぐらいに流暢。スペイン語もだいたい分かるし、30歳を過ぎてから覚えた日本語も、日常会話はこなせます。
最後の日本語は、私と一緒になって来日した時、半強制的に在日外国人向け、公文の日本語教室に通わせたこともあり、最初の1年でなんとかなりました。まぁ、日本で暮らすには、日本語ができないと超不便。必要に迫られたと言えばそれまでながら、今私がイロンゴ語学習で四苦八苦してることを思えば、やっぱりすごい。
だからと言って、フィリピン人がどんな発音もオールマイティかと言うと、そうでもないらしい。典型的なのはF音がP音になってしまうこと。
多少なりともフィリピンと縁のある人なら、お気付きの通り、まず国名のフィリピン共和国 Republic of the Philippines は、フィリピノ語の正式名称が、Republika ng Pilipinas リパブリカ・ナン・ピリピナス。
400年前、スペイン人に占領される以前のフィリピンの言葉には、F音がなかったそうです。なので、その後入ってきたスペイン語や英語の単語は、今でもオフィス(office)がオピスィーナ(opisina)、フェイバリット(favorit)がパボリート(paborito)みたいなことに。これは、イロンゴ語でもまったく同じ。
それにしても、発音できないような国名を押し付けられたのに、独立してもなお、それを使い続けるって、忍耐強いというか寛容というか。(マルコス大統領の時代から、スペインによる侵略前の「マルハリカ」に戻そうという議論はあります。もちろん発音の問題ではありませんが。)
ただし、現代フィリピン人がFを発音できないわけではなく、最初に書いた通り、小さい頃から英語は聴いたり喋ったりしているので、私が英語のRをきれいに発音できない、というのとは違い、ついうっかり、ひっくり返ってしまうという感じ。
そりゃそうでしょうね。いくら英語が公用語でも、大部分の人たちは、タガログ語やそれぞれの方言で生活しているわけですから。日本では、ほぼ関西弁のみで暮らしていた私には、その感覚はよくわかります。
最近ツィッターで笑ってしまったネタに、「英語留学したいけど金がない」「それならフィリピンに行け」「フィリピン訛りの英語になるから嫌だ」「訛りが気になるレベルになってから言え」というのがありました。
ネタなんですけど、私はかなり言語習得の真髄を突いていると感じます。最近の日本の親御さんたちって、子供に、訛りのないきれいな英語を身に付けさせたいと思いがち。これって白人コンプレックスも、かなり混ざってる気がします。
考えてみれば、英語発祥のイングランド以外で使われてる英語って、イングランド人が聴けば、全部、地方の訛り。イングランド国内でも都市によって違うし、連合王国内のスコットランド、ウェールズ、北アイルランドなど土台から違う。
私が業務出張で訪れた、東南アジア、香港、インド・パキスタン、中近東に、ヨーロッパ大陸など。仕事は全部、日本訛り...というより関西訛りの英語で押し通しましたものの、訛りで馬鹿にされたことは一度もありません。インドなんて、向こうの訛りの方がずっとキツい。それでもちゃんと、仕事はできたわけす。
ということで、ネイティブも舌を巻くぐらい英語ができる日本人が、オックスフォード、ケンブリッジのアクセント(アクセントも訳せば訛り)を学ぶのなら意味があるかも知れませんが、大多数の人にとっての母語訛りって、むしろ誇ってもいいとさえ思います。訛りを気にし過ぎて、萎縮するよりは、訛り丸出しでも堂々と喋った方が、内容さえしっかりしていれば、相手は敬意を払ってくれると思いますよ。
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