ここで言うヒール(Heel)とは、主に女性が履くハイ・ヒールのヒールの意味ではなく、プロレスの悪役レスラーのこと。コミックやアニメで超有名な「タイガーマスク」で育った世代としては、ベビー・フェイス(善玉)とヒール(悪玉)は、セットで刷り込まれた言葉です。
実際に英語を母語とする人には、それほどポピュラーな言い方ではなく、「Villan」とか「Bud guy」の方が一般的。その対語が「Hero」ヒーロー「Heroine」ヒロイン。
今回のアメリカ大統領選を見ていると、私には現大統領のトランプさんを、ヒールと呼びたくなりました。それもただの悪役ではなく、主役を食ってしまうような、歴史に残る名ヒール。日本のプロレスなら、ザ・デストロイヤーとかアブドラ・ザ・ブッチャーのレベル。
小説でも映画でも、トランプさんのような個性的で分かりやすい悪役キャラクターが登場すると、物語としては断然面白くなります。例えば、ダースベーダーがいなければ、スターウォーズはあれほど長く、観客に愛されるシリーズにはならなかったでしょうし、シャー不在のガンダムなんて、想像すらできません。
比較的最近の映画で言うと、やっぱりバットマンのジョーカーでしょうか。圧巻だったジャック・ニコルソンを始め、演じたアクターは名優と呼ばれる人たちばかり。ヒース・レジャーとホアキン・フェニックスに至っては、ジョーカー役でアカデミー賞を受賞しているほど。
ただ、映画の中の悪役なら実害はないけれど、現実の政治家、それも大統領がヒールだったら、その国の国民は堪ったものではないでしょう。幸か不幸か、日本では、愚かな総理大臣は何人もいましたが、トランプさんと比肩するような確信犯的ヒールはちょっと思い浮かびません。
その点、自慢にも何にもなりませんが、フィリピンには悪名高きフェルディナンド・マルコスがいます。無茶苦茶な公私混同で、フィリピン経済をして「アジアの病人」と呼ばれるまでにしてしまった罪は許されないにしても、政治家としての手腕は、政敵でありライバルだったベニグノ・アキノ上院議員が、小粒に見えるほどだったそうです。
つまりそれほど強い、今風に言うと「ラスボス」。ところが圧倒的に強いラスボスの場合、かえって反対する勢力を団結させる力が、強く働くみたいですね。ご存知の通り、20年続いた独裁の最後は、革命によって亡命の憂き目に。
まぁ、マルコスとトランプさんを比べると怒られそうですけど、あの天然の悪役ぶりは、同じ系統じゃないかと感じます。両方ともちゃんと選挙を経て大統領になった人たちだし。そして、トランプさんとバイデンさんを並べて見ると、やっぱり存在感も迫力も、トランプさん圧勝。バイデンさんが僅差で選挙に勝てたのは、「トランプではない」の一語に尽きるでしょう。(まだ何が起こるか、就任まで分かりませんが。)
今回の選挙では、100年ぶりの高い投票率で、バイデンさんの得票数が史上最高を記録。日本でも連日の報道合戦が起こるほどの注目度だったし、アメリカに住んでいないフィリピン人からも、フェイスブックなどで関連する投稿がたくさん。これも、トランプさんの、際立ったキャラクターが為せる技。
ということで、お祭り騒ぎが一段落して、私などちょっとした喪失感「トランプ・ロス」を味わっておりますが、アメリカ国民と次期大統領のバイデンさんにすれば、本当にたいへんなのはこれから。
何しろ内戦並みの暴動が懸念されるほど、国民が真っ二つに分断した状況でも、当然ながらバイデンさんは、自分を支持しなかった人たちのケアもしなくてはならない。本人も勝利宣言の中でそう言ってますけど、これは茨の道。
フィリピンの場合、マルコス失脚後のコラソン・アキノ政権は、今ではほとんど評価されていません。自身がフィリピン屈指の財閥、コファンコ一族の出身だったせいか、マルコスの負の遺産、汚職体質に対して無為無策。マルコスさえいなければ、薔薇色の未来が約束されていると夢見た国民を、失望させてしまったようです。
ということで、日本にもフィリピンにも影響力の大きさは計り知れないアメリカ経済。バイデンさんには、別に歴史に残る大改革や善政は期待しませんので、何とか事態の収集をソフトランディングにしてもらって、次の常識ある政権にバトンタッチしてもらいたいと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿