2023年3月29日水曜日

8時間労働の意味が理解できない日本人

 先日ツイッターで紹介されていた「男性育休・育児のロング・アンド・ワインディング・ロード」という記事が、なかなか考えさせられる内容でした。これは岩波書店が運営しているサイト「たねをまく」への寄稿で、筆者は大学の教授。

同じく大学の研究者である奥さんの出産に伴い、諸般の事情から夫の筆者が、1年10ヶ月の育児休業を取得し、その後も単身で家事・育児。今の日本で、共働き夫婦が子育てすることの難しさを、思い知らされるような内容でした。

詳しくは記事をお読みいただくとして、シンプルに疑問に思ったのが、なぜ日本では8時間労働が根付かないのかということ。一応は法律でも1日の労働時間は8時間で、その間、最低45分の休憩が必須、1週間では最大40時間となってますが、実際に日本で会社勤めした経験がある人なら、いかにこれがザル法かは、言うまでもないでしょう。

海外で仕事したり住んだ経験からすると、連日帰宅が夜9時、10時、下手すれば終電が当たり前なんて国は、日本以外に見たことがありません。ちなみに我が家では、家内がフィリピン教育省の職員で、月〜金勤務。私はメイドさんの助けを借りながら主夫業を営んでおます。

移住して家内が就職して、かれこれ6〜7年ぐらいですが、帰宅が深夜に及んだことなんて、本当に記憶にない。たまに翌日、本省からエラいさんが来るので準備に残業、とかがあっても、せいぜい夜8時ぐらい。それも年に数回あるかどうか。

基本は夕方の5時に仕事は終わり、トライシクル(オート輪タク)で10分もかからない場所なので、少々遅くても6時には家内は戻っています。なので我が家の夕食は毎日6時過ぎ。当然、高校生の息子も一緒に食卓を囲み、その日あったあことなど話したり。フィリピンならば、ごく普通の風景です。この「ごく普通」が、日本で成立する家庭は、一体どれだけあるのやら。

そもそも8時間労働って、19世紀に1日12〜14時間働かされていた欧米の労働者たちが、とんでもない苦労をして資本家や経営者から勝ち取った血と汗の成果。そんな経緯があるので、彼の地での労働観の根底にあるのは「苦行」。働くことは辛く苦しいことなので、少しでも早く年金を受け取り、悠々自適の生活に憧れる人が多いそうです。

そしてちょうど今(2023年)フランスでは、現行の62歳から64歳に定年退職年齢の引き上げをめぐって、大揉めに揉めている真っ最中。すでに65歳からしか年金を貰えない日本人からすれば、羨ましいぐらいです。

フィリピンも、300年以上に及ぶスペインの占領を経て、搾取され続けた歴史があるせいか、労働に対する感覚は似たようなもの。オフィスでは定時近くになると、タイムカードの前に行列ができる。1分1秒でも余計に職場に居たくないらしい。でも、この逸話を笑ったあなたは、完全に日本的仕事中毒に毒されていますよ。

これが30年ぐらい前の、まだ「ジャパン・アズ・ナンバーワン」神話が生きていた、バブル経済華やかなりし頃ならまだしも、非効率的な長時間労働の悪習は引きずったまま、給与は相対的に下がり続け、今では日本でオフィス勤めするより、アメリカや西ヨーロッパでウェイターやウェイトレスやってる方が割りが良いぐらい。

もうフィリピンに住んで10年も経つ私にすれば、地滑り的に労働力の海外流出が起こらないのが、不思議で仕方がない。冒頭に紹介した記事を書いた方は大学教授。日本の外で知的労働に就くだけのポテンシャリティはお持ちのはず。なぜ日本に固執するのか。

こう書くと、日本を捨てるなんて非国民が!みたいな前時代的な罵声が聴こえてきそうですが、他に選択肢があると示されれば、必ず、人材を引き止めるために待遇が改善されると思うんですよ。今、人不足が深刻な教員とかトラックの運転手って、結局仕事が厳しく長時間なのに、給与が安いから。決して「若者の○○離れ」の類いでも、やりがいがないわけじゃないでしょう。

日本以外の場所での8時間労働って、野球が9回まで、サッカーが45分ハーフの90分で終わるのと同様の絶対的なルール。延長戦になることがあっても、飽くまでそれは例外。プロの選手だって、毎試合延長戦させられたら、疲労は回復せず、メンタルやられちゃいますよ。


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