2018年2月25日日曜日

においの記憶


匂い・臭い、日本語では同じ読みでも、良いものと悪いものを漢字で区別するようになっています。ところが、ネット上の文章でよくあるのが、悪臭を指しているのに「匂い」と書いてしまう例。「腐った卵の匂い」とか。逆はあまり見たことがないですね。「彼女の髪は良い臭いがした。」なんて、字面が明らかに変だからでしょう。

今日は「におい」のお話。
日本に住んでいた頃、仕事でもプライベートでも、海外に出ることが多かった私。アメリカに入国して何泊かした後に、車で国境を越えてメキシコへ行ったり、オランダからヨーロッパに入って、鉄道でベルギー、ルクセンブルグへ旅したりというのは、比較的珍しいケース。大抵は、空港がその国の玄関口。

つまり、空気ごと日本から運ばれて、飛行機の扉が開いた瞬間に、いきなり「外国」の空気にさらされる。そうすると、とてもよく分かるんですよ、その国の「におい」が。例えば、インドネシアのジャカルタ。特産の香料入りタバコの強烈なにおいが、渡航者をお出迎え。インドならばカレーのような香辛料。

においの元がはっきり特定できる場合は、わりと少なくて、生まれて初めての海外旅行だったロンドンは、確かに独特のにおいを覚えているけれど、さて何のにおいかと言われると、答えられない。悪臭ではないにしても、良い匂いとも言えない。

これはフィリピンも同様で、あの熱帯独特のムワっとした空気は、間違いなくいつでも同じにおい。汗臭いような、何かの調味料のような。敢えて言うなら、コリアンダー(パクチー)のにおいに似ている? フィリピンだけでなく、マレーシアやタイでも同じような感じだった気がします。私は勝手に「熱帯臭」と命名。

その逆に、何年も海外に住んで、久しぶりに日本に戻ると、空港でお醤油のにおいがすると言った人がいました。一昨年、3年ぶりに帰国した時、本当にそうなのかと待ち構えてましたが、関西空港では何のにおいも感じられなかったですね。ちょっと残念。日本のにおいが分かるまでは、もっと年月が必要なんでしょうか。

ところが10日間の日本滞在を終えてフィリピンに戻ると、今度は熱帯臭も感じない。嗅覚に関してだけ、私は日比ハーフの息子と同様の、二重国籍者になったいたようです。どちらにも慣れてしまった。

さて、ここネグロスにも、特有のにおいがあります。いつもにおっているわけではないけれど、年に数回、サトウキビ畑の刈り取りが終わる頃の焼畑から発する、焚き火のにおい。フィリピンの田舎では、枯葉やゴミを庭や道端で燃やすのが普通なので、どこでも焚き火のにおいはしますが、全島サトウキビ畑のネグロスでは、ひどい時など早朝から街中うっすらとモヤがかかったようになり、焦げ臭い空気が充満する日もあるほど。

現地生まれの人には、この煙にアレルギーがあって、花粉症のような症状が出る人もいる。私もそれにやられたらしく、ここ数年は、ちょうど今頃の1月から2月にかけて、軽い蓄膿症みたいになります。

くしゃみはそれほどでもなく、鼻づまりもないのに、鼻腔の辺りが重くなり、においが感じられなくなる。何が困るといって、食べ物の味がほとんど分からない。味覚と嗅覚がどれほど深く関係しているか、思い知らされます。特に料理担当としては、相当つらい。死ぬまで、このままだったらどうしようと、毎年心配になります。

今年もその時期を迎え、数日前からようやく嗅覚が戻り始めました。朝起きて、犬のゴマと、猫のチャコ美に餌をやろうと近づくと....動物ってこんなに臭かったのか。最近生まれて、目が開いて、今が可愛い盛りの仔猫たちも、めっちゃ臭い。別に初めて嗅ぐにおいでもないのに、数週間もにおいのない世界にいると、思った以上に敏感になっていたんですね。


1 件のコメント:

  1. 日本へ遊びに来る台湾人の友人は、「空港に着いた時、生魚のにおいを感じると日本に着いたという実感が沸く。」と言っていました。
    私が感じるフィリピンのにおいは、バコロドに限って言えば「小便臭い。」です。
    バコロドに来たばかりの頃、道を覚えようと市内を歩き回ったのですが、どこに行っても小便臭いのです。
    今もそうですが。
    でも、そんなにおいの中でも、Inasalのにおいは良いものです。

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