2023年7月27日木曜日

泉さんは日本のドゥテルテ

今年(2023年)4月に3期12年に及ぶ明石市長の職を退いた泉房穂さん。遠く日本を離れた、ここネグロス島からも、その動向を注目しておりました。先日はアマゾン・ジャパンで購入した彼の書籍「社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ」と「政治はケンカだ! 明石市長の12年」の二冊を読了したばかり。

市長を辞めてからは、満を持したようにインタビューやテレビへの出演、執筆活動にツイッターと、インターネットで見ている限り、ちょっとした「泉フィーバー」が起こっている感じです。現職時代には、どんなに明石市政での実績が上がっても、ほとんど無視かネガティブ報道しかしなかった大手の新聞や放送局さえ、まるで手のひらを返したような持ち上げぶり。

この騒ぎ方って、何となく既視感があると思ったら、1972年(昭和47年)に田中角栄さんが総理大臣になった時に似てるんですよ。当時私は小学校4年生だったので、それほど詳しく覚えているわけではないものの、連日テレビや週刊誌で、あの特徴的な風貌を頻繁に目にしたものです。極め付けは、日頃政治など興味を示さなかった私の父までが「人間・田中角栄」なる書籍を買い込んで読んでいたこと。半世紀の時間差で、親子で同じようなことしてますね。

角栄さんの首相就任時と泉さんが大きく異なるのが、すでにリーダーとしての確固たる実績。何と言っても、全国的に少子化と経済的な閉塞感の横溢の真っ只中にあって、各種の無料化などに代表される改革で、10年連続の人口増を成し遂げました。本人さん曰く、人口増は結果であって、ポイントは「誰一人取り残さない政策」が功を奏したから。

そんな姿を、フィリピンの片田舎から眺めていてフと思ったのが、フィリピン前大統領のドゥテルテさんとの類似。こう書くとすぐに「暴言」と思われるでしょうけど、そういう表層的なことではありません。まぁ、確かに両者とも暴言や舌禍の類は多いですが。

まず、二人とも社会の暗部を実体験として知っている点。泉さんは貧しい漁師の家庭に生まれ、弟さんが障害者。子供の頃に散々差別と偏見にさらされ、それを見返してやろうと、何と10歳で市長を目指したと言います。そして柔道3段で、学生時代には喧嘩に明け暮れていたんだとか。

方やドゥテルテさん。父親は市長や知事を歴任し裕福な生まれでしたが、幼少時に神父からの性的虐待を受けたり、どうやら若い頃には殺人にも手を染めたらしい。もちろん後者については、逮捕も訴訟もされてませんし、本人はジョークとして語ってますが、本当にやったようです。

その後二人とも弁護士になります。つまり両者とも、虐げられた人や犯罪に走ってしまった者からの視点を、共有できる立場にあったこと。その上、フィジカルな喧嘩も強い。加えて法律にも詳しいとなったら、これは鬼に金棒ですね。生半可な脅しぐらいには動じないメンタリティは、こうして培われたものと推測されます。

そして圧巻の市長時代。明石市長の泉さんは、子育て支援の財源を捻出するために、不必要かつ数百億もかかる下水工事を中止したり、完全に年功序列で決まっていた部長職人事を適材適所に改めたり。当然のように、市議会、市役所職員、そして長年、市からの発注を受けていた建設業者から猛烈な反発。殺害予告までされたのは、よく知られた話。

さらに激しいのがドゥテルテさんのダバオ市長時代。こちらは22年以上も市長を務め、喧嘩相手は犯罪者。今ではほとんど伝説と化してますが、禁煙に従わない観光客がいると飲食店からの通報を受けて、警官ならぬ市長自らが現場に赴き、銃を突きつけて喫煙を止めさせた、なんてこともあったらしい。容疑者の射殺黙認の対ドラッグ戦争は、改めて書くまでもありません。

やり方はあきらかに違法で、人権侵害も甚だしいとの批判は今も根強いものの、とにかく最悪の治安だったダバオに平和をもたらしたのは、紛れも無い事実。大統領になってからも、同じ手法を貫いた彼は、常に暗殺のリスクを意識していたと言います。

何よりも強調したいのは、二人とも市民・国民の方を向いた政治家だったこと。どれほど市役所内で四面楚歌の状況になっても、子育て中のお母さんたちを始めとして、二期目以降の市長選では圧倒的な市民の支持で再選された泉さん。マニラのタクシー運転手や、娼婦たちにまで親しまれたドゥテルテさん。任期切れ直前まで高い支持率を保った大統領は、フィリピン史上初めてなんだそうです。

そんな泉さんの話を、先週のイロンゴ語レッスンで、家庭教師のバンビにしたところ、もう身を乗り出さんばかりの共感。貧困から身を起こして、利権政治のジャングルを超人的に切り拓くのは、ひょっとすると日本人よりもフィリピン人に響くストーリーなのかも知れません。特に子沢山のフィリピンで高校の先生をしているバンビには、子供の給食や医療費、おむつの無償化が、激しく心の琴線に触れたようです。



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