2023年7月31日月曜日

誰一人見放さない高校教師

 先週投稿した明石市の前市長、泉房穂さんに傾倒するあまり、子供の支援施策や学校教育について考えることが多くなった最近の私。日本だけでなくここフィリピンでも、就学時期の子供たちをめぐる環境には、問題が山積しています。

これは、外国人としての私が感じる諸問題ながら、一つには英語とフィリピノ語という必須言語が二重になっていること。ルソン島や首都圏周辺のフィリピノ語、つまりタガログを母語にしている人でも大変なのに、私たち家族の住むビサヤ諸島のように、母語がそれらとは別のヒリガイノン(イロンゴ)語やビサヤ(セブアノ)語だったりすると、外国語をもう二つ勉強するような状況。

さらには、もっとマイナーな母語を持つ山間部や離島出身者は、地方自治体からの情報を得るために、上記の方言すら追加学習となってしまいます。これでは意図的に落ちこぼれる生徒を増やしているようなもの。実際に英語でつまずいて、学校そのものを諦める生徒もとても多い。2015年 フィリピン統計局の調査によると、小学生の12.5%、高校生の18.4%が卒業できずに辞めてしまうんだとか。

さらに深刻なのは、貧困と早すぎる妊娠・出産。以前は、ちょっとドライブしたら信号待ちで子供の物乞いが集まってきたものです。ここ10年ほどは景気が良くなって、中流層のボリュームがぐっと増え、少なくともここネグロス島の州都バコロドや私の住むシライでは、そういう光景は見なくなりました。とは言え、好景気にも乗れない、底辺の貧困層はまったく放置状態で、相変わらずの世代をまたがる貧困の連鎖は断ち切れていないのが、フィリピンの現実。

国公立のすべての学校で授業料が不要になった今でも、中古ですら制服や教科書が買えなかったり、学校へ行くための往復100円にも満たないトライシクル(輪タク)代が払えない家庭もある。それでも頑張って通学しても、中学生ぐらいで子供ができてしまい、やむ無く退学、あるいは、犯罪に手を染めて逮捕・収監というのも、決して珍しくはありません。

そんな児童・学生を救済するセーフティ・ネットとして機能しているのが、ALS(Alternative Learning System / 代替学習システム)。何を隠そう、私のイロンゴ語の家庭教師のバンビが、このALSに従事する現役の高校教師。

彼女は、生徒の自宅や病院、バランガイ・ホール(公民館に相当する施設)、果ては刑務所まで、求められればどこにでも赴いて授業をやります。生徒の年齢も様々で、もうとっくに成人して働いているオっちゃんや、赤ちゃんを抱いたお母さんまで。

当然のように、頭脳明晰・成績優秀な生徒は少なくて、教科書の内容を理解する以前に、そもそも読み書きができない子もいるそうです。そして、ここからがバンビの偉いところ。そんな他の教師が見放した落ちこぼれや問題児であっても、辛抱強く指導。本人がドロップアウトしない限り、時間外であっても補習を延長。

学年が終わって夏休みのこの時期は、卒業する生徒たちが、バンビの自宅にまで押しかけて、ポートフォリオ(就職などに向けての履歴書)作成の助けを求めている。

元来、本当に「敬虔なクリスチャン」であるバンビ。平日は教義に反する事ばかりやって、日曜日だけ教会に懺悔しに来る、多くのフィリピン人不良信徒(私も同類)からは、最も遠いところにいる存在。

なので、加減ということができず、過労と睡眠不足でフラフラになるまで頑張ってしまう。この私が「あなたが体を壊してしまったら、あなたの生徒も家族も、神さまだって悲しむから、自分の健康のことを第一に考えなさい」なんて、柄にもないアドバイスをしてしまったぐらい。ここ1ヶ月ほどは、土日もかかりっきりなので、私のイロンゴ語レッスンは、姪っ子エイプリル嬢に来てもらっています。

ということで、フィリピンというと、子供好き、子供を大切にする、というイメージを持つ方も多いでしょうけど、社会全体として、とても子供に優しいとは言えないフィリピン。そんな歪みを少しでも正そうと、献身的に子供たちを支えているのが、バンビを代表とするような、ALSの先生たちなのかも知れません。



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