2021年3月9日火曜日

バランガイ・キャプテンの調停

 前回に引き続いて、ご近所さんから苦情申立てをされた件です。

金曜日に召喚状が届いて、何とも気分の悪い土日を過ごし、迎えた月曜日の朝。8時半の出頭に向けて、6時にセットしたアラームよりも早く目覚めました。天気は生憎の雨模様。週明けの「どよよ〜ん」な感じは、日本でのサラリーマン時代を思い出させます。

家内と一緒に、いつもより早めの朝食を済ませて、自宅からトライシクル(オート輪タク)で、ものの5分のバランガイ・シンコ(第五バランガイ)の事務所。

人口12万のシライ市内には、全部で16のバランガイがあるので、単純に平均しても、住民数は1万人近く。最小行政区画とは言え、日本のちょっとした自治会レベルより、はるかに大きい。特にバランガイ・シンコは、市内最大の高級住宅地を抱えているので、事務所はずいぶんと立派。隣接するバスケットボールのコートもきれいに整備されています。



さて、私たちより少し遅れてやって来た、苦情を申し立てたオっちゃん。短パンにサンダル履きなのはともかく、もう見るからに「私、怒ってます」という態度を全身に漂わせてます。実に子供っぽくて、私は、その様子を見た瞬間、これは大したことではないなと、不謹慎ながら、つい苦笑してしまいました。

というのは、召喚状はバランガイ発行の公文書なので、いかつい文面ですが、要は、住民同士の喧嘩を仲裁するのが主目的。喧嘩をふっかけて来た相手が、ずる賢く陰謀を企むようなタイプではなく「腹立ったから先生に言いつけた小学生」みたいだったので、これは適当にガス抜きしてあげれば収まるだろうと、計算できたからです。

招き入れられた部屋は、バランガイ・キャプテンの公務室。フィリピン式に、彼のデスクの前に向かい合わせに置かれた椅子に、私とオっちゃんが座り、まずは苦情の申立て。

思った通り、私に「静かにしろ」と言われたのが気に食わなかったようで、それについて「ここは日本じゃないんだから、お前はフィリピンをもっと尊重しろ」とたどたどしい英語でわめき出しました。

さすがにこれにはキャプテンも閉口して「何があったのかだけを、私に向かって話しなさい」とたしなめました。おそらくキャプテンは、こういう調停の経験が豊富なんでしょうね。笑顔を浮かべて、落ち着いた対応。

その後は、方言のイロンゴ語になったので、家内に時折通訳してもらいながら、聞いたところでは、私に言われただけでなく、宅地の警備員から再三に渡って注意されたのが、いたく彼のプライドを傷つけたらしい。だからと言って、金品や謝罪を求めるわけでもなく、ただストレス発散の場を求めていた感じ。

それよりも大事だったのは、オっちゃんに付き添って来た奥さんの発言。学校の先生をしているそうで、旦那さんが怒っていることより、いずれ家を建てて引越してからの近所付き合いを心配したそうです。

本当はバランガイ経由ではなく、直接話し合いをしたかったけれど、相手が見知らぬ外国人(私のこと)で、怖かったとのこと。

そういうことならばとばかりに、私は英語で、いきなり「静かにしろ」と言ったのは失礼でしたとあっさり謝って、警備員に頼んで、路上で大音量の音楽を注意したのは、宅地のルールだからであって、私がフィリピンの習慣を蔑ろにしたからではない。今は、音量も下げてくれたから、現状に不満はないと説明。お隣さん同士なんだから、仲良くしましょうと閉めました。

案の定それを聞いて、オっちゃんの態度はすっかり軟化し、最後は笑って握手で終わることができました。

ここまでで約30分。土日イヤ〜な気分だったのがすっかり晴れて、オっちゃん夫妻退出後に、キャプテンと少し話ました。私と同世代の60歳前かと思いきや、実はもう68歳。一昨年、家族連れで日本旅行した時のことを、嬉しそうに話してくれました。子供がタコ焼を気に入ったとか、桜が美しかったとか。

さらに、雨がひどくなって来たので、キャプテン自らの運転で、私と家内を送ってくれる VIP対応。バランガイ・キャプテンというと、ちょっと偉そうな印象ですが、気さくで親切な好人物。


さて、驚いたのは、その後。

なんと、苦情を申立てたオっちゃんの奥さんが、家内のバッチ・メイト(高校の同級生)でした。その関係で、早速家内が他の友達に聞いてみたところ、最近その旦那さんは、イギリスで看護師として働く息子からの仕送りで、にわか金持ちになり、すっかり傲慢になったとか、娘がシングルマザーになって、イライラしてるとか。

うわっ、シライはなんて狭いんだ。

なるほどなぁ。この宅地を購入したのはオっちゃんではなく、その息子だったのか。私の一言に逆ギレしたのは、金持ちの外国人(に見えるのが痛し痒し)へのコンプレックスもあったんでしょうね。なので「フィリピンを尊重しろ」なんてセリフになったわけだ。

しかし、これだけ噂話の拡散が早いフィリピン。それでなくても目立つ外国人の私など、陰で何を言われてるかと思うと、空恐ろしくなってきました。

ということで、バランガイ・キャプテンによる調停は、これにて一件落着。



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