2019年11月14日木曜日

「他人に迷惑をかけない」呪いの言葉その1


フィリピンに移住して、距離を置いて日本からの情報を見聞きすると、国内にいた時とは違った見え方がしてきます。しかも、企業からの駐在などではなく、早期退職して住民票も抹消したので、ほとんどのしがらみがなくなった事も大きい。

それに加えて、日本語版ながら、ニューズウィークやCNN、BBCなど、親会社が日本に所属しないメディアの記事を読むようにしていると、国内から発信されている情報とは、まったく別の切り口があることに気付きます。

そして特に気になった内容に関しては、英語の元記事から関連する記事をグーグル翻訳で読んでみたり。ここ数年で、自動翻訳の精度はずいぶんと改善して、意味を掴むだけなら、十分使えます。

最近では、薬物使用や不倫をした芸能人、事件・事故に絡んだ、特定の人物を叩く見出しばかりが並ぶのにウンザリして、ヤフー・ジャパンをブラウザのホームページに設定するのを止めました。政治や経済だけがニュースとは思いませんが、半分以上が三面記事的というのは、ちょっと異常。

日本を外から見る感覚が身についてくると、日本に住んでいた頃には常識だと思っていたことが、実はフィリピンや、その他の国からすると、恐ろしく時代錯誤だったり、とても歪んでいたり。

ということで、これから何回かに渡って、私が感じる、現代日本人の思考や行動を精神的に縛っている「呪いの言葉」を、いくつかピックアップして、それについての考えを投稿したいと思います。

その第一回が「他人に迷惑はかけない」。

意味そのものは、ちっとも悪くはないし、良好な対人関係を築く上での基本的な考え方。ところが日本人の場合どんどん拡大解釈して、自分への諫めだけでなく、周囲の人にまで強要するクセがあるようです。それも無言の同調圧力で。

例えて言えば、糖分の取り過ぎは体に悪いと聞いて、砂糖一粒でも猛毒だとばかりに極端な糖質制限をした挙句に、血糖値が下がり過ぎて倒れてしまうようなもの。

つまり、会社の同僚や上司に迷惑をかけてはいけないから、熱があろうが頭痛がしようが、這ってでも出社して、深夜に及ぶ残業をする類の話。あるいは、台風や大雨で、交通機関が止まると分かっていても、仕事に出かけて帰宅難民になるパターン。

さすがに、会社が相手ならば、これはおかしいと気付く人も増えたようで、先日の台風19号の時には、無理せず家に止まろうとの声がネット上で多数派。

もっと深刻なのは、生活保護の捕捉率(条件を満たした人が、保護を受けている割合)が2割程度だとか、周囲の助けを拒んだ末の孤独死など。「他人に迷惑をかけない」メンタリティが、影を落とした結果じゃないでしょうか。過労死や自殺が多すぎるのも、根っこは同じなのかも知れません。

忍耐を美徳とするのは、間違いではないし、フィリピンに暮らすと、ちょっとは我慢しろよと、言いたくなる場面に出くわすことも多いのは事実。それでも、健康や命に関わる痩せ我慢は、どう考えても行き過ぎ。

「迷惑」の定義にもよりますが、そもそも人間って、誰の迷惑にもならずに生きるなんてできません。病気になったり怪我をした時、誰にも頼ってはダメなんて、それは無理。困っている人を助けようとして、拒絶されるのもつらいですよね。

ある程度の年齢になって、どうしても周囲の助けが必要になった時、私のような外国人に対してさえ、フィリピン社会は温かい。家族・親類はもちろん、近所のオっちゃんやオバちゃんも、こっちが困っているとなったら、本当に親身になって心配してくれます。

最初に「他人に迷惑はかけない」と言い出した人は、決してそんなつもりではなかったんでしょうけど、「甘え」や「自己責任」などの文言と組み合わされることで、日本を生き難く、息の詰まりそうな国にしていると思いますね。


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