2023年8月9日水曜日

卒業生は80歳

 先週投稿した、私のイロンゴ語家庭教師のバンビ。彼女はALS(Alternative Learning System / 代替学習システム)で、訳あって学校に通えない人たちに、高校の授業をする先生です。先日、ALSの卒業式が、ここネグロス島・シライの市営体育館で行われました。

その写真が、フェイスブックの市長のページで共有されていたのですが、私が驚いたのは卒業生の数。一般の高校と同じぐらいで、ざっと数百人はいる感じ。こっちの学校って、小中高、どこも生徒数が多い(というか、子供の数が多い)とは言え、普通校に通えない人って、こんなにたくさんいたんですね。

注目すべきは、卒業生の年齢。何と卒業証書を受け取った80歳の婆ちゃんが、バンビに手を取られて降壇する姿が。その後ろでは、同じく60歳の教え子。おそらく、卒業後の就職とか何とかじゃなくて、若い頃に学校を諦めざるを得なかった事への、執念なんでしょうね。昨年還暦の私が、バンビの生徒最高齢と思ってましたが、20年も先輩がおられました。


バンビ先生(左)と最高齢の卒業生


市長をはさんで60歳と80歳の卒業生


ALSの先生たち

もちろん、そうした生徒全員をバンビが一人で教えているのではなく、何人もの教師がいるとのこと。ただバンビの場合、プライベートな時間を犠牲にして「誰一人見放さない」ポリシーを貫いているので、特に多くの卒業生を送り出したそうです。ということは、バンビの担任クラス以外では、最後のチャンスとも言うべきALSを、途中でドロップアウトしちゃう生徒が、少なくないんでしょうね。

先週、久しぶりに私のイロンゴ・レッスンに来てくれてバンビ曰く「頑張ってたくさん卒業できたので、何か美味しいものでも食べなさいって、上司がボーナスくれました。」なんだか、親戚の子供が、予期せぬお小遣いを貰ったみたいで、不惑のバンビが幼い子供のように嬉しそうにしてました。

それにしても、いくら地方分室とは言え教育省勤務の国家公務員で、そこそこの給料があるはずのバンビ。それなのに、パートナーのマイケル君と住んでいるのは、約6畳程度の狭いワンルームで、洗濯機を奥スペースもない。よくよく話を聞いてみると、すでに亡くなった親の借金をまだ払ってるんだとか。あと2年で完済すると話してくれました。

兄弟姉妹はたくさんいるバンビなので、一人で背負わなくてもよさそうなものですが、そこは、収入のある人が家族全員を助けるフィリピン的なメンタリティ。これって一人の出稼ぎ労働者の送金に、親族全員がぶら下がっているのと似てます。それだけでなく、国内でロクに働きもしないのに、送金額をケチってると文句を言われ、それに耐えかねて逃げちゃう人もいるんだとか。たまたま出稼ぎ先で知り合った既婚者同士が駆け落ち、なんて話も時々あります。

バンビの場合は、流石にそんなことはないにしても、兄弟姉妹や親戚には何かと問題を抱えているケースが多い。例えばバンビの姉にして我が家のメイドさんのグレイスおばさん。若くして旦那さんに先立たれ、その後苦労して二人の子供を大学まで卒業させました。その娘が、バンビの交代要員で私のもう一人の家庭教師のエイプリル。

このエイプリルも、昨年、夫が精神の病を患いやむなく別居。すぐに激昂して、家具を壊したり本を焼いたりと、とても家庭生活を営める状況ではなかったそうです。それに輪をかけて、親戚には酒で身を持ち崩す人が多い。実はつい数日前も、バンビの27歳の従弟が、飲酒が原因の病気で亡くなったばかり。

何だか「薄幸なるゴレツ(バンビの苗字)一族に幸あれ」と、本気で祈りを捧げたくなりますね。なので、次週のレッスンでは、バンビとマイケル、エイプリルの三人を昼食に招待することにしました。ということで、卒業式の話題でハッピーにまとめるつもりが、ずいぶんと暗い方向に行ってしまってすみません。



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