2016年10月26日水曜日

経済支援 1兆4000億円


ついにドゥテルテ大統領が日本に到着しました。フィリピンの大統領訪日は、もちろん初めてではないけれど、こんな騒ぎになったことは、記憶にありませんね。私と家内が日本に住んでいた頃、当時のアロヨ大統領が訪日時に大阪にまでやってきて、二人で顔を見に行ったことがあります。あの時は、ほとんど報道もされず、人知れずひっそりと...という感じでした。

それにしても日本語の記事は、相変わらず表層的なものが目立ちます。「暴言大統領」「フィリピンのトランプ」「超法規的殺人」など、決まりきったフレーズが枕詞。本当にレッテル貼りが好きですね。ただの人気取りで言いたい放題の大統領候補と、暗殺さえ覚悟している政治家を、同列に並べるのは失礼です。それにアメリカとの決別宣言や、中国との和解など、もう少し掘り下げて報道できないものでしょうか? 

そもそも外交では、どんな国でも自国の利益最優先が当たり前で、そのために権謀術数の限りを尽くすもの。それを表に出た言葉だけを額面通りに受け取って、アメリカに喧嘩を売っただとか、中国の飼い犬に成り下がったとか。そんな記事なら、素人にだって書ける。

ドゥテルテ大統領の場合、多数を前にした記者会見より、単独インタビューの方が、彼の政策の背景を理解する上で、重要な内容が多いように思います。昨日(10月25日)付けのNHKの記事によると「(フィリピン国内で)フィリピン兵士以外の武装した兵士は見たくない」との発言がありました。

考えてみるとフィリピンには、約500年前スペインに占領・植民地化されて以来、1991年のスービック基地返還まで、常に外国の軍隊が居座り続けてきました。スペインの後はアメリカ、その次は日本、そしてまたアメリカ。以前、仕事でマニラに滞在していた時、たまたまアメリカ海軍艦船の寄港と鉢合わせしたことがあります。その夜、当時の歓楽街エルミタ辺りでは、羽目を外した海兵が大挙繰り出して乱痴気騒ぎ。外国軍隊の駐留とはどういうことなのかを、思い知りました。何世紀にも渡るフィリピン人の感情を思うと、ドゥテルテ大統領の言葉の重みが分かります。(追記:巡回駐留という、恒久的な基地を持たない形で、今も米軍はミンダナオ島にいます。)

ようやく追い出した外国の軍隊が、スプラトリー(南沙)諸島の領有権問題を理由に、また戻ってくるかも知れない。それよりも係争相手の中国と和解して、問題そのもを棚上げにする方が、よほど現実的。どうせアメリカは中国と本気で事を構えるつもりはないし、中国が易々と撤退することなどあり得ません。具体的な約束は何もない「玉虫色」の共同声明と引き換えに、軍事的な緊張を和らげ、経済制裁は解除。その上巨額の経済支援を得るとは、何とも巧妙な外交手腕ではないですか。(当然ながら、中国国民は怒っているらしい。)

総額1兆4000億円と言われる経済支援。2015年のフィリピン国家予算が約7兆円なので、国全体の年間支出の1/5に及ぶ金額を、たった数日の訪中で稼ぎ出したことになります。しかも、使い道が麻薬中毒患者の更生施設やインフラ整備など、まさに直近の課題に当てられるとのこと。どこに消えていくのか分からない、バラマキ予算とは違う。

フィリピンは、2015年のGDP(名目GDP)の比較で日本の1/14、何と中国の1/38の経済小国。軍にはジェット戦闘機も空母も戦車もありません。現時点でアメリカは、自国兵士の血を流してまで、守ってくれるかどうかは不透明。一国に頼るリスクを分散させるのは、弱小国の生き残るための知恵。現にアメリカは、南ベトナム政府とその国民を、見捨てた過去がありますから。フィリピン国内からの視点で考えると、ドゥテルテ大統領の言動は、そんなに気まぐれでもないと思いますよ。




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