2018年9月26日水曜日

フィリピン女性はなぜ強い 〜養老孟司さんのこと〜


私には、その著作を通じてのみの出会いで、一方的に人生の師と仰ぐ方が、何人かいます。フィリピン移住に際しても、たくさんの蔵書を持ち込み、折に触れてお師匠たちに教えを乞う日々。

最近は、養老孟司さんの本を順番に再読中。その中の一冊、阿川佐和子さんとの対談「男女の怪」(オスメスのかい なんちゅうタイトル!)で、「なるほど、だからフィリピンの女性は強いのか」と、目からウロコ落ちまくりの話がありました。もう2〜3回は読んでるのに、以前はまったく気づいてなかったんですよ。

養老さんが、自著で繰り返し書かれている「都市化」という概念。私なりの解釈で説明すると、人間が住んだり働いたりするのに、便利で快適な環境をとことん追い求めるのが、都市化。蛇口をひねれば、きれいな水が出て、スイッチを押せばいつでも家電製品が作動。家も職場も冷暖房完備で、交通機関も定刻通り。

やってる仕事にしても、理詰め一辺倒。来年の事業計画やら次期商品開発やら、将来を理屈で先読みすることがメイン。それがいかに妥当かという、論理的説明のための資料作りに、忙殺される人も多いでしょう。これらすべての事象を、養老さんは、「ああすればこうなる」の一言で表現されています。脳の中でこしらえた理屈が実現する、すべて「想定内」がお約束の社会。

その対極にあるのが田舎。特に「自然」相手の農作業は、「ああすればこうなる」が通じるとは限らない。今年のように風水害が多かったり、山が崩れるような地震でもあれば、1年がかりの労働がすべてパー、ということがいくらでも起こる。忘れてはならないのは、こうした予測困難な自然に、都会の人々は食料その他を依存しているということ。都会だけでは生きられない。

そして、いくら都市化を進めても、どうしても残ってしまう自然がある。端的なのは、女性の体。つまり生理と妊娠・出産だと養老さんは指摘します。個人差が大きいので、一概には言えないけれど、やっぱり月に1回、問答無用で、出血に伴う痛みや体調不良などが、1週間前後も続くのはたいへんなこと。

ところが、それが当たり前だと表立って言えないのが今の日本。生理休暇は取りにくいし、出産前後、長期に休むと、その後のキャリアにマイナスになる職場も多い。妊娠=退職、となることもあるぐらい。そもそも生理中だと、パートナー以外の男性に悟られるのが、恥だと言わんばかり。

先日の熊本地震の際に、被災地への支援物資にあった生理用品を、不謹慎だと送り返したオっさんがいたと話題になりました。デマだとの意見もありますが、本当にありそうだと思われたので、こんなに拡散したんでしょうね。

さらに自然そのまんまなのが、子供。これほど「ああしてもこうならない」存在は、他にないぐらい。どんなに愛情を注いだつもりでも、泣く、喚く、病気にはなる、言うこと聞かない。親がこうなってほしいと思った通りになんて、まずならない。だいたい、これを書いている私が、今までどんだけ親の期待を裏切り続きてきたか。(別に後悔はしてませんが)

なので、都市化された場所では、女性が差別され、子供が疎まれ、その結果出生率が落ちる。養老さんに言わせると、都市化すると当然起こることで、経済の好不調とか男女意識の変化なんて、まったく無関係なんだそうです。なるほどなぁ。

だから放置していいということではなく、養老さんは大真面目に、都会人の定期的な田舎暮らし、現代の「参覲交代」を提言されています。


ずいぶんと長い前置きのあと、やっとフィリピン。
日本に比べると、「ああしてもこうならない」は実に多いこの国。停電・断水は日常茶飯事だし、交通機関のお粗末さは、今更書く気にもならない。ネグロス島なんて電車が走ってないし。

仕事についても、計画性の無さというか、予測どころか、未来時制で考えるのがカラッきし苦手。たまに時間厳守されると、こっちが驚くぐらい。フィリピンで経営者をやってる人は、苦労が絶えないでしょう。

フィリピン社会そのものが、「ああしてもこうならない」への強い耐性を持っている。そういう意味では、フィリピンの人って忍耐強くて、お店での接客態度が悪いとブチ切れてるのを、見たことがないですね。

フィリピンが都市化してないなんて言ったら、家内に怒られそうですが、まるで養老さんの説を実証するかのように、そんなフィリピンでは女性が強いし、子供がうじゃうじゃ。フィリピン女性は、家庭でも職場でも自信に満ち溢れ、実際に有能な人が多い。特に金勘定については、男には危なくて任せられない。フィリピンの子沢山・子供好きは、もう説明不要のレベル。

そして声高に言いたのは、逞しく生活力の塊のような女性に依存している、少なくない数のフィリピン男性について。彼らが惨めで不幸な存在かというと、全然そうは見えません。むしろ毎日楽しそう。私がネグロスで主夫をやっているのも、それを誰も不思議に思わないのが大きい。

ということで、参勤交代もいいけれど、例えば3年に1度ぐらい、数ヶ月でもいいから、定期的にフィリピン暮らしをすれば、都市化し過ぎた日本人の脳も、多少バランスを取り戻すかも知れませんよ。


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