2021年7月4日日曜日

埋め難き感覚の溝

 これはフィリピンと日本の間に限ったことではないけれど、生まれ育った国が違うと、根本的な価値観や常識の感覚に、どうにも相互理解が難しい溝があるもの。

昨日(2021年7月3日)のイロンゴ語レッスンでのこと。たまたま私がフィリピン・ネグロス島に建てた家の竣工7周年で、いつものように宿題で「大きな家に住むのが、私の昔からの夢で、子供の頃は、このゲストハウスと同じ大きさの家に、家族5人で狭かった。」みたいなイロンゴ作文を用意。

今はお客さんが来ないので、離れとして使っているゲストハウスは、昔の実家の間取りを再現したもの。2LDKで、夫婦と一人っ子ぐらいなら楽に暮らせても、三人兄弟だった私には、中学生以降ぐらいから、狭く感じて仕方がなかった。

ジョークのつもりではなく、素直に思った通り書いたのですが、家庭教師のアンはちょっとシラけた表情で「私が子供の時は、同じぐらいの家に9人住んでましたよ〜。」とのこと。狭過ぎて、リビングルームが夜は寝室になって、そこにも子供たちを寝かせてたらしい。

ちょっと焦って「日本でも昔は畳の部屋が、リビング・ダイニング・ベッドルーム全部兼用だったんだよ。」と、ネット検索した和室の写真など見せて説明したら、私の家の床は竹で編んだ粗末なもので、こんなのとは違いますと、さらに墓穴を掘ってしまった。

まぁ落ち着いて考えたら、アンがこう言うのも当たり前。ネグロスならば、家の広さも子供の数も、それぐらいでまったく不思議はありません。家内の親戚や、息子が通う私立学校の生徒とその父兄などは、平均以上に経済的に恵まれていることを失念しておりました。

こういう会話が積み重なって「日本人はみんなお金持ち」なんてステレオタイプができたんでしょうね。

これは比較的分かりやすいケースで、笑って済ませられますが、本気でフィリピンに住むとなったら、深刻な対立になることもあります。典型的なのは、騒音や煙。街中のかなり建て込んだ住宅地でも、朝から深夜までガンガン音楽を流したり、庭にごみや落ち葉を集めて盛大に焚き火をしたり。

貧困層になればなるほどこの傾向が顕著で、なまじっか静かだと寂しく感じると言います。なるほど、先代のメイドさんで山育ちだったジャジャは、寂しいからと数日で辞めちゃいましたね。私たち家族の住むセント・フランシスは、シライ市内でも数少ない「閑静」が売りの住宅地。家の周囲には、騒がしいトロトロ(大衆食堂)や、店の前に者がたむろするようなサリサリストアー(雑貨屋)もない。

焚き火については、もう国民性(ネグロス島民性?)のレベルにまで染み付いた習慣。週に一度はゴミ回収車が来るんだから、それに出せばいいものを、とにかく煙を上げるのが大好き。つい先月など、やたら家の近くで煙がモウモウ。ちょっと文句言ってやろうと思ったら、犯人は我が家のメイド、ライラおばさんだったり。苦笑するしかありません。

それ以外で、こっちでビジネスをする時に困るのが、金銭感覚の深い溝。未来形で物事を考えるのが苦手な人が多く、中には前回投稿した家内やその親戚のように、きっちりしてる人もいますが、まだまだ銀行口座がなくても驚かないネグロス島民。

その日か、せいぜいその週の稼ぎで、家族を養う生活なので、計画的に貯蓄する習慣が根付かないんでしょうね。有ったら有るだけ使ってしまう。以前こっちの友達に、私の生活は、日本で働いて貯めたお金や退職金を、毎月少しづつ使うことで成り立ってますと話したら、フィリピン人には到底無理ですと、変な感心のされ方をしました。

さらに複雑なのは、同じフィリピン人でも、富裕層と貧困層の感覚の違いがすごい。私がこちらで思うのは、一般的な日本人って、裕福な華僑系のビジネスパーソンと同じなんじゃないかということ。お金を適正に貯めて使って、時間を守る。ビジネスの基本中の基本。

自宅建設中には、いろんな建材屋さんと取引をしましたが、納期や品質で信用できるのは、やっぱり華僑の商売人。特別優秀とまでは思わないにしても、日本にいるのとほぼ同じように仕事が進むし、無理なことは無理と、はっきり言ってくれる。経済が華僑に独占されてしまうのは、仕方がない。

でも困ったことに、お金や時間にシビアなことが、反感を買うタネにもなってしまうのがフィリピン。事情も知らずに「中国人は金に汚い」なんて風説を鵜呑みにする日本人もいますが、大抵の場合は、逆恨み。約束通りに集金しようとしたら「お前は金の亡者だ」と罵られてしまうお国柄。

郷に入れば郷に従えとは、よく言われる諺だし、わざわざフィリピンに移住して地元の人の感覚に異を唱えるのは無意味。そもそも「善悪」じゃなくて「違い」でしかないんですよね。ネグロスに骨を埋めるつもりの私としては、慣れるしかないことは慣れる努力をして、それがダメな場合は、何とか創意工夫で乗り越えるしかなさそうです。


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