2020年1月30日木曜日
再読「復活の日」
このタイトルを知ってる人には、何を不謹慎なことをしていると、お叱りをいただきそう。バブル期に青春を送った私たちの世代なら、多分覚えておられるであろう「復活の日」。1980年に、角川映画によって映像化された、小松左京さんのSF小説。
何が不謹慎かって、事故により拡散した細菌兵器「MM-88」によって、南極大陸にいた僅かな人間以外、全人類が滅びてしまうという内容だから。選りに選って、新型コロナウイルスによる肺炎の世界的大流行の最中に読まなくても。
いちびり関西人の私も、さすがにそこまで趣味の悪いことは考えません。実は、新型肺炎の騒ぎが起こる前から、読み始めておりました。何度目か分からないほど、再読を重ねているので、少しづつじっくり読んでたら、現実世界が追いついてしまったという次第。
この小説が発表されたのが、驚くことに1964年(昭和39年)。東海道新幹線が開業し、東京オリンピックが開催された年なんですよ。そんな世相を反映してか、冒頭では、かなりバラ色の近未来(1970年代直前)描写。
ガンの特効薬発明。米ソ冷戦の雪解けを受けて、パリ〜モスクワ間に開業する「ユーラシア・ハイウェイ」。それに向けて、時速200キロのガスタービン自動車が実用間近。南極観測船は、旧式船の宗谷から、一気に原子力船になってたり。そんな前途洋洋たる人類が、70年代を迎えようとしたある日「突然死」してしまった、という流れになるわけです。
細菌の流出から、人類滅亡のプロセスについては、もう往年の小松さんにしか書けない、膨大な知識と驚異的な想像力による、詳細に及ぶリアルさ。この10年後に、歴史的なベストセラーになる「日本沈没」と比べても、まったく見劣りしない迫力。当時、小松さんは30代の前半。長編はこれが2作目とは思えない成熟した筆力。
そんな、今読んでも全然古臭くない内容なので、どうしても現在進行形の新型肺炎のニュースに重ね合わせてしまいます。小説では、当初は細菌兵器とは誰も気づかず、新型インフルエンザ「チベット風邪」の流行とされます。不気味なのは、同時に鶏ペスト(現在の鳥インフルエンザ)が猛威を振るい、ワクチン作りのための鶏卵が不足するという件。
偶然なんでしょうけど、新型肺炎に先立つ2018年から、中国で豚コレラが発生。豚肉価格の高騰を招ねき、2020年になっても、まだ収束したという話は聞いていません。「復活の日」に影響されたとは思えませんが、ネット上では「アメリカ謀略説」のデマが流されてます。
とは言え、小説に登場する細菌 MM-88は、潜伏期間がたった十数時間(新型肺炎は1〜2週間)の、現実にはあり得ない爆発的な感染力。小松さんも、自然に発生させるには無理があると思ったのか、人工衛星に付着して地球に到達した細菌に、人間が手を加えたという設定。
MMとは、マーシアン・マーダラー(火星の殺人者)を意味し、88とは88世代目の試作。あまりに毒性が強すぎて兵器として使えないため、毒性を弱めるはずが、誤って87の二千倍の強毒菌に。
ということで、小松左京さんの構想と描写に感心し、リアルタイムの感染爆発にビビりながら、南国フィリピンでの読書は、佳境を迎えております。
ラベル:
日本の話題
場所:
フィリピン シライ市
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