2021年8月23日月曜日

公用語ふたつの重圧

 いきなり親バカな話で恐縮ですが、今月16歳になったばかりの、日本・フィリピンハーフの我が息子。現在、ネグロス島シライ市内の私立学校、聖テレシタ学院というミッション系の小中高一貫校に通い、日本で言うなら中学生。親の贔屓目をさっ引いても、勉強はできる方だと思います。

年に4回ある定期試験の度に、英語・数学・理科(サイエンス)で、学年トップの賞状やメダルを貰って来るし、コロナ禍前は、州都バコロドで開催される学校対抗学力コンテスト(公開模試みたいなもの)の常連メンバー。

母親はフィリピンの最高学府、フィリピン大学に奨学金貰って入学した秀才で、私も美大を志した時に担任の先生から「もったいない」と言われる程度には、理数系はできました。なので、フィリピンの地方都市とは言え、それなりに学力優秀な子供が生まれたのは、それほど訝しむことではありません。

とまぁ、聞き苦しい自慢はここまでとして、そんな息子の超苦手が国語。つまり公式にはフィリピノ語と呼ばれるタガログ語。全科目の平均点ではクラストップ争いしているのに、タガログ語だけはいつも80〜70点台で、この夏休み前の学年末テストでは、とうとう欠点。

全般的にフィリピンの学校は厳しくて、できる子には飛び級がある代わりに、できない子には落第もある。息子の場合、さすがに落第にはならなかったけれど、タガログ語だけ補修授業。こういう時に家内は、教育ママの本領発揮。息子の勉強机の隣に座って家庭教師みたいになりますが、私は何の助けもできないので、いつも家内のなだめ役。

普通に考えて、ひとつでも飛び抜けた得意教科があれば御の字で、苦手がない方が不自然。落第じゃなくて補修だけなんだったら、そんなに神経質にならなくても、と思うんですけどね。

実際、英語がネイティブ並みに読み書き・聞き取りができれば、フィリピンでの生活や英語圏でビジネスするのにはまったく困らない。将来を考えても、不得意分野に時間を割くぐらいなら、好きで得意なことを深める方がいい。

そもそもフィリピンの子供たちにとって、公用語が二つあるのが重圧。聞くところによると、タガログを母語とするマニラ周辺でも、科目としてのタガログ語を苦手とする子は少なくないらしい。

しかも厄介なのは、社会科の教科書はタガログ語、数学や理科は英語で書かれているので、言語で落ちこぼれると、一気に他の教科でついていけなくなる。それでなくても経済的な理由もあり、大学進学率が決して高くないフィリピン。ドゥテルテ大統領によって、国公立校が無償化されても、せいぜい30%程度。日本の54.4%に比べると、かなり見劣りします。

せめて必須言語は英語だけに絞ったら、貧しい家の子供でも、大学進学できる可能性がぐっと上がるんじゃないでしょうか。学歴重視社会のフィリピンなので、大学を卒業できるかどうかは、貧困撲滅に向けてたいへん大きなポイント。

さらに厳しいのが、地方の方言生活者。それも、家内の母語であるイロンゴ語や、隣島セブのセブアノ語のように、百万、千万単位の話者がいるメジャーな言葉ならばまだしも、離島や山奥に住むマイノリティの場合、母語以外に習得すべき言葉が三つになってしまう。

歴史的に見ると、タガログ語が公用語として選出された1937年(昭和12年)当時、まだ実質的にアメリカの植民地だったフィリピン。多島・多言語である実情も考慮すれば、公用語は英語でも良かったんでしょうけど、民族感情として母語を選びたい気持ちも分かります。

日本の場合、日本語ですべての教科を学べるのが当たり前と思われますが、これは幕末から明治初期、並々ならぬ労力を注いだ国語改革があったお陰。主にヨーロッパから導入された物品や制度を、漢字をベースに造語したり、恋愛の詩歌を作るだけでなく、政治や法律、科学を論じられるよう表現方法を整えたり。

和製漢語をちょっと調べただけでも、文化、文明、民族、思想、法律、経済、資本、階級、警察、分配、宗教、哲学、理性、感性、意識、主観、客観、科学、物理、分子、原子、質量、固体、時間、空間、理論、文学、電話、美術、喜劇、悲劇、社会主義、共産主義 などなど...。

つまりタガログ語って、江戸時代の日本語みたいなものと言えるかも知れません。そりゃ、英語やスペイン語からの借用語が多いわけだ。数学や理科を昔の言葉で勉強するなんて、できなくはないけど、すごく面倒なことになりそう。

ということで、わざわざ公用語を二つにしたわけではなく、結果的にそうなったフィリピン。その背景も理解できますが、教育現場で子供たちが受ける重圧を考えると、そろそろどっちか一つにした方がいいと思うんですけどね。



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