2017年9月13日水曜日
マニラの地下鉄
ベニグノ・アキノ大統領の時代。彼の手腕なのか、たまたま幸運だったのかはともかく、フィリピンの景気が大好転。マニラ首都圏での経済活動が活発になり、あちこちで再開発による建設ラッシュ。こうなると深刻になるのが、世界のどの都市でも同じように交通渋滞です。
1990年代に、交通渋滞「アジア最悪」と言えばタイのバンコクが有名でした。今では我がマニラ首都圏が、ありがたくない後継者に。そこで日本のJICA(国際協力機構)に地下鉄建設の事前調査が依頼されました。調査はすでに完了し、報告書がネット上に公開されています。ちょっと読んでみましたが、実に広範囲に渡った綿密な内容。
この計画は、メガマニラ地下鉄プロジェクトと呼ばれ、前任のアキノ氏を引き継いだ、ドゥテルテ大統領の目玉政策にもなっています。そして先ごろ、終点がマニラ国際空港(NAIA)に延伸の形で変更され、第1期事業が政府機関によって承認されました。
さらに、この11月(2017年)、アセアン首脳会議で、安倍首相が日本からの大規模ODA(政府開発援助)を行うことを伝える見通し。これで、懸案だったマニラの地下鉄建設が、本格的に始動します。総工費は、今後3年間で 3兆6000億ペソ(約7兆9000億円)。2020年着工で2025年営業開始とのこと。
マニラ首都圏に地下鉄を建設については、フィリピン在住だったりフィリピンをよく知る日本人の反応は、だいたい二つに分かれます。「できたら便利だし嬉しいけど、たいへんだろうなぁ」という一縷の希望派と、「フィリピン人に、そんな難しいことができる訳がない」という頭から馬鹿にする派。
フィリピンに関わってかれこれ20年以上の私は、当然前者です。昔は「まるでダメ」なことばかりだったこの国。ところがネグロスの片田舎ですら、新しい空港が完成し、巨大ショッピングモールも開設。最近は停電も減ってきたし、曲りなりにもネットは通じる。日本食レストランだって何軒もある。
場所による格差もあるし、貧富の差は大きいのは相変わらずながら、いろんな面で生活は良くなり、インフラも整備されてきました。ところが、フィリピン人を配偶者に選び、フィリピン、それもマニラに住んでいるオっさんに限って「馬鹿にする派」の急先鋒が多い。すぐに道路が冠水するから、地下鉄作ったりしたら水浸しになるぞ、なんて。それは馬鹿にし過ぎ。
ここで他の東南アジア諸国の現状を見てみましょう。最も早かったのが、東南アジアの優等生シンガポールで、1987開業。1998年にはマレーシアのクアラルンプール。前出のタイ・バンコクが2004年。ベトナムの首都ハノイとホーチミン(旧サイゴン)で現在建設中となっています。
バンコクの場合、日本の円借款や軟弱な地盤、洪水の多発など、マニラとよく似たケース。相当な難工事だったようで、2本ある路線の1本「ブルーライン」は、1997年の着工から運行開始まで、7年を要しました。やはり最初は、地下鉄建設に否定的な意見が多かったそうです。
今回の国家プロジェクトは、フィリピン国内に留まらず、南沙諸島の領有問題などで、日本と中国の思惑が交錯した国際案件。ドゥテルテが、この状況を利用して日本からの援助を勝ち取ったという側面もあるでしょう。
ただしこの両天秤のやり方は、つい最近、インドネシアが高速鉄道建設計画で失敗しています。日本の新幹線方式に決まったと思ったら、金銭面で常識外れな好条件を提示した中国が逆転受注。ところが、中国の融資条件の「土地収用100%完了」が、実はまだ55%。すでに2年経過した2017年現在もほとんど建設が進んでおらず、計画そのものを危ぶむ声も上がっています。
実はフィリピンでも、2007年のアロヨ政権時代、中国に建設を任せた、マニラ首都圏と郊外を結ぶ旅客鉄道が、未完のまま挫折した苦い過去があります。その他にも、既に営業中のマニラの地上鉄道(MRT)で、38億ペソ(約87億円)で中国から購入した車両が、マニラに到着してから不具合が発覚。また、同じくMRTで保守点検を韓国に任せてから、ドア故障や脱輪のトラブルが頻発したり。
嫌中・嫌韓の連中が大喜びしそうな話ですが、フィリピンの納税者にしてみれば、笑い事ではありません。いずれにしてもマニラの地下鉄には、日本の資金が使われるのは間違いない。中国・韓国のことや、これまでの経緯は関係なく、とにかくちゃんと完成させて、ちゃんと運営してほしい。フィリピン在留邦人の一人として、切にそう願います。
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