2017年10月31日火曜日

不透明なビジネス環境


フィリピンで起業する日本人ビジネスマンの方々。学生寮や、タクシー会社の経営、中には地方で農業だったり養豚だったりと、私が見聞きした範囲だけでも、かなりの数の日本人が、様々な職種で頑張っておられます。

私がフィリピンと関わり始めた20年ほど前は、たまたま知り合ったフィリピン女性に、引っ張られるようにフィリピン暮らしを始めた人が、簡単にできそうだからとジプニー(ジープを改造した小型乗り合いバス)のオーナーになったものの、トラブル頻発で結局大損、なんて話をよく耳にしました。

これは、フィリピン社会を舐めてかかって失敗した典型的な例。さすがに最近は、そこまで軽率な人は減ったようです。マニラ首都圏で永年に渡り、多種多様な事業を手がけて、いまでは地元日本人社会の名士というべき人もいるし、フィリピンと日本を股にかけて、投資ビジネスで堅実に稼いでいる人も知っています。

それでも失敗する人も少なくない。特に私が難しいという印象を持つのが飲食店経営。まだ日本食が珍しかった頃ならともかく、今では高級レストランだけでなく、フードコートの中にでも、フィリピン人が経営するTAKOYAKIの店があるほど。よほど低価格でコストパフォーマンスが良いか、日本から本物の料理人を招聘して、超一流のメニューとサービスを提供するか、とにかく他に抜きん出た特長がないと、利益も出ないし長続きもしない。

都心の一等地に、鳴り物入りで派手にオープンした日本人経営のレストランが、瞬く間に閉店に追い込まれるのは、珍しことでもありません。もちろんこれは日本人に限らず、誰がやっても難しさは変わらないようです。

例えばネグロスの州都バコロドで実際あった話。十数年前、ちょうど私がネグロスに宅地を購入し、日本人の建築家に現地に来てもらい、自宅の設計プランを練り始めた頃。出来立ての日本食レストランがあると聞いて、その建築家の方と一緒にバコロドで最大のショッピングモール、SMシティへ。

日本人シェフの元、日本で研修を受けたというフィリピン人コックが作る料理は、多少高くても、私たちが食べてもまったく違和感なく美味しかった。特にバコロドチキンで有名な地鶏の卵と、これまた地元産の豚肉を使ったカツ丼の味は、ネグロスにいることを忘れるほど。

ところが翌年、店構え・メニューはそのままなのに、味は別物に変わり果てていました。どうやら利益を出せずに、居抜きでオーナーが変わった模様。日本食の看板は降ろさず、材料や調理方法でコストダウンして、味付けもローカルテーストに変えてしまったようです。超ガッカリ。その店は今でも同じ名前で続いていますが、日本人が期待する日本食ではなくなってしまい、その後2度と行くことなし。

また、フィリピン独特の難しさは、ビジネス環境の不透明さ。私も運転免許やビザの発給で嫌というほど知っている通り、あらゆる種類の許可や書類の発行に、恐ろしいほどの手間、時間、そして費用が必要。それも事前に分かっていることではなく、担当窓口によって言うことが違うし、露骨にワイロを要求される。そして困るのが時間が全然読めないこと。上司が休みだから出直せとか、急にルールが変わったなんてのは日常茶飯事です。

さらに商売を初めてからも、日本では予想もできないようなリスクが。つい最近、マニラ首都圏のマカティで、昔から営業している日本食レストランが多数入ったテナントビルが、実は10年以上も、政府に対しての不動産賃貸料などが5億ペソ以上も未払だったと理由で、突然閉鎖となる事件があったばかり。(詳細は、こちら。)

こういうところが、外資導入で発展したシンガポールやマレーシアとの、決定的な違いでしょう。手間や経費の面で優遇しますから、末長く我が国に雇用と納税を、というギブ&テイクが明確なのに対して、片やフィリピンは、外国籍経営者への規制が大きいし、取れる奴らからは徹底的に搾取の姿勢が露骨すぎます。結局労働力の安さぐらいしか魅力がない。いつまで経っても貧困層が多いままなのは、この辺りにも原因がありそう。

私の場合、一応デザインという専門能力や知識はあり、フィリピン市場向け商品も担当したとは言え、30年近く企業内のインハウスデザイナーの経験のみ。こんなレッドオーシャン真っ只中で仕事を立ち上げる自信は、まったくありませんでした。なので無職でも、そこそこの生活ができる目処が立ってから移住したというのが実際のところ。幸い家内が政府関係の仕事が得られたので、今はメイド付きの主夫として気楽な生活を送っています。

はっきり言って、ストレスから逃れてネグロスにたどり着いたのに、またぞろストレス渦巻くフィリピンでのビジネスに頭を突っ込むつもりは、毛頭ありませんでした。そういう目で見ると、果敢にもこの国で起業し、成功している人を見るにつけ、心から尊敬の念が湧いてきます。本当にすごい。到底真似できません。


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