2018年1月7日日曜日

ブラック・ナザレ



1月9日は、フィリピン在住の方、特にマニラ首都圏の在留邦人には、お馴染みのブラック・ナザレ祭(Black Nazarene)。カトリック関係の催し物が多いこの国にあっても、一際盛大で、毎年100万人もの人々が集まります。

ただ信徒ではない人にとっては、迷惑以外の何物でもない。ただでさえ日頃の交通渋滞が末期的なレベルの首都圏周辺。中心部の道路が封鎖されて、とても仕事どころの話ではありません。毎年この時期には、在マニラの日本大使館から、テロの危険があるとの注意喚起メールが送られて来るほど。

そもそも「ナザレ」とは、イエス・キリストが大工ヨセフの息子として、成人するまでを過ごした街の名前。イエスが生前に「ナザレの人」と呼ばれたことから、イエスその人の呼称としてナザレが用いられることがあります。つまりブラック・ナザレとは、黒いイエス・キリスト像のこと。

このキリスト像は、17世紀初頭にメキシコからフィリピン・マニラ市内のキアポ教会に移送。途中の船火事のために焦げて、黒く変色したとされています。以来400有余年、度重なる火災や太平洋戦争中のマニラ市街戦でも焼失を免れ、今ではこの像には病を癒す奇跡の力があると信じられるに至りました。


このように、カトリックの祭事とは言っても、キアポ教会だけのローカルなもの。フィリピンの他の地域では、特別なことは何もない。もし日本人の知り合いでカトリック信徒の方がいても、フィリピンに詳しい人でなければ、まずご存知ないでしょう。20年前にネグロス島で洗礼を受けた私も、5年前に移住するまで、このお祭りについての知識はありませんでした。


キアポ教会

それにしても、ブラック・ナザレに対する、マニラ周辺のカトリック信徒の熱狂ぶりはものすごい。カトリック伝来以前から、祈祷師による病気治療が行われ、現在でも本気で信じている人も多いフィリピン。我が家のメイド、ネルジーが耳の不調を訴えた時も、向いの家に住む婆ちゃんが、祈祷の心得があるからと、祈ってもらってました。結局は、お医者さんに行って耳掃除したら、一撃で全快しましたが。

そんな下地に加えて、やっぱり400年前の像が現存するという即物性、分かりやすさが、人気の理由なんでしょうね。像を拝めば病気が治るなんて、タチの悪い新興宗教みたいと言われそう。それでも医療費が高額で、医者に診てもらうこともできない患者が、いくらでもいるフィリピンならば、すがりたくなるのも分かる気がします。しかも拝む対象が、当時のローマ法皇、インノケンティウス10世による認可を得たという像ですから。

お祭りが行われる1月9日は、この像のキアポ教会への移送「トラスラシオン」(Traslacion)を記念する日。沿道を埋め尽くす信徒をかき分けて、イントラムロスやマニラ市内を、像を積んだ山車が、20時間にも渡って行進します。

ブラック・ナザレは、ゴルゴダの丘で磔刑に処せられる直前の、十字架を担いで歩くイエスの姿を模したもの。市民に見守られながらの行進は、降誕節の最中ではあっても、主の復活を彷彿とさせる行事とも言えるでしょう。


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