十日ほど前にこのブログで紹介した、フィリピン発のアニメ・シリーズ「異界探偵トレセ」が、ネットフリックスで配信が始まったという話題。週一回のイロンゴ語(西ネグロスの方言)レッスンでも、その話を元にイロンゴ作文をしたところ、若き家庭教師のアン嬢も興味津々。カウンター・プロポーザル、というわけでもありませんが、少し前にマニラで起こった、トレセ絡みの事件について教えてくれました。
それによると、配信が始まる5日前、市内の幹線道路沿いに複数設置されたトレセの広告が、軒並み落書きの被害にあったとのこと。赤いスプレーで書かれた「俺たちの街だ」とか「出て行け」など言う文言が。ネット上に拡散した写真の中には、なぜか「ドゥテルテ追放」なんて、トレセとは無関係なものを、ちゃっかり紛れ込ませたり。
最初は、カトリック国のフィリピンならではの、悪霊や悪魔への拒絶反応が、少々過激な形で噴出したのかと思いました。何しろ、美貌の霊能力者トレセの敵は、人間の内臓を食らい、生き血をすする化け物たち。
私の年代だと、やっぱり思い出すのは、「エクソシスト」「オーメン」などの、反キリスト教のオカルト映画。古典的なところでは、十字架を恐れるドラキュラもそうですね。
でもよく考えたら、私が観たトレセの第一シーズンでは、キリスト教と関連付けられた描写って、見当たりませんでした。血塗れの残酷なシーンは多々あれど、どれも、おそらくはキリスト教伝来以前からの伝承にある、呪術的・土俗的な内容ばかり。トレセが唱える呪文も、ラテン語ではなくタガログ語。
これは私の推測ですが、原作者のブジェッテ・タンさんは、フィリピン人。下手にキリスト教を匂わせるようなストーリーにして、まじめなクリスチャンの信仰心を刺激したら、コミックの排斥運動が起こりかねないことは、承知しているはず。
記事の中には、ネットフリックスが話題作りのために自作自演したんじゃないかと、穿った見方をするものもあったり。さすがに私も、そこまではやらないと思いますけど。そんなことしなくてもフィリピンでは、韓流ドラマ人気もあって、ネットフリックは大成功してます。
ここまで書いて、ふと思い当たったのは、ひょっとすると敬虔なカトリック信徒ではなく、昔からの伝承を、信じている人の仕業なのかも知れません。
日本人の感覚からすると、まさか、と思われそうですが、都会暮らしの人たちでも、病気になったら呪術医に頼ることが多いフィリピン。貧困率が高くて医療費が高いことも、その背景にあるでしょうけど、教育がある富裕層ですら、頭から否定する人の方が珍しいぐらい。
我が家のメイド、ライラおばさんは、年齢的にいろいろと体調不良に悩まされて、時々呪術医のばあさんに診てもらってるそうです。それ聞いても、フィリピン大学出の家内は、決して笑ったりしませんから。
そもそも人々のあいだに、そんな感覚があるから、「超人的な呪術医」とも呼べるようなトレセが、人気を博しているんでしょうね。