2024年12月18日水曜日

激動の2024年12月


出典:CNN World

 あっという間に12月も半分以上過ぎてしまいましたが、何ですかね、この約2週間は? シリアでは、先代から数えると半世紀も続いたという政権がほんの数日で崩壊して、自国民を殺しまくっていた独裁者アサドがロシアへ逃亡。そして前回の投稿で書いた通り、お隣の韓国では、1980年代と間違えたような戒厳令が布告されたと思ったら、一転して大統領が弾劾で失脚。まだ最終決定ではないにせよ、当初の任期を全うすることは、まずあり得ないでしょう。

ウクライナには、なぜか北朝鮮の兵士が大量に実戦動員され、すでに多数の死傷者が出ているらしい。こちらは遠くは日本のシベリア出兵とか、比較的最近でも韓国軍のベトナム戦争への派兵を思い出させるような、前世紀の遺物の如き振る舞い。

武力や強権ではなく平和裡に政権交代するアメリカでも、反ワクチン論者のロバート・ケネディJr.が、トランプ次期大統領によって保健福祉省長官に指名。あろうことか、小児麻痺やジフテリア、破傷風などのワクチンの承認取り消しを求めるとしています。普通に考えて、こんなアホなことをすれば、救えるはずの何万、何十万の命を失うことになりかねません。それこそウクライナやガザに匹敵するか、それ以上の死者が出る大惨事が必至。

さらに、フィリピンや日本の命運に直接関わるのが台湾有事。もはや推測や懸念の域を超えて、90隻もの艦船で台湾を包囲する威嚇を行った中国。最近私が視聴している、青山繁晴 参議院議員のYouTubeチャンネルによると、中国軍部のトップが立て続けで失脚していて、これは、習近平の台湾侵攻の意向に、従わないからだとの見方があるらしい。その裏には、もし台湾を侵略してもトランプ新大統領は動かないんじゃないか、との読みがあるようです。

確かに、ミサイルをガンガン打ち込んで、台湾の全都市をガザのような廃墟にするつもりならともかく、今や世界一の品質と生産量を誇る半導体を始めとする、産業や経済力を奪い取るのが目的なのは明らか。そのためには、決して狭いとは言えない海峡を渡って、大規模な陸上兵力を送り込まないといけません。素人考えでも、中国側の兵士の死傷率はすごいことになるでしょう。軍部が抵抗するのも当然で、それでなくても孫子の時代から、攻めるには守る側の3倍の兵力が必要と言いますから。つまり今回の包囲は、力押しではなく、海上封鎖で兵糧攻めにするぞという脅し。

とまぁ、海外にたくさんの出稼ぎ労働者を送り出しているフィリピン国民にすれば、どれひとつとっても、夜も眠れなくなるような大問題。...のはずなんですが、どうも、一般市民はあまり興味がないらしい。まず、私のイロンゴ語の家庭教師で、高校の先生であるバンビが、そもそもどの事件についても、ほとんど知らない。

考えてみれば、家にテレビはないし、唯一の情報源がFacebook。もちろん情報格差も貧富の差もエゲツない国なので、ニュースに対する感度は人によって千差万別。これをもって「フィリピン人は×××」と断言する気はありませんが、それにしても、もうちょっと気にならんものかと思いますねぇ。さすがに、超ローカルな話題のカンラオン山の噴火活動には、多くの人が注目してますけど。

ということで、心配したからと言って、悪いことが起こらないわけではないし、特にここフィリピンでは選挙権もない外国人に過ぎない私なので、せいぜいこのブログに不安な心情を書きつのるが関の山。本当に来年2025は、どんな年になってしまうんでしょうか。



2024年12月5日木曜日

戒厳令 怖い

 前回、政治向の話が続いたので軽い話題を...と言った舌の根も乾かぬうちに、韓国でたいへんな騒ぎが起こってしまいました。フィリピン人にもトラウマになっている「戒厳令」が、21世紀になって25年近く経った今、再び人々の耳目を集めることになろうとは。

フィリピンでも、Kポップや韓国発のネットフリックスドラマは人気です。さらに、たくさんの韓国人観光客が押し寄せるため、日頃から韓国への関心はとても高い。さらに偶然ながら、ちょうど1960〜80年代に、戒厳令を悪用したリーダーによって国民が苦しみ、80年代の中頃に民主化を果たしたという共通体験があるせいか、この事件もテレビやネットで大きく報道されました。家内も夜中までスマホ片手にニュースを追いかけてましたね。

結果的には、大統領の暴走、あるいはクーデターとも言える戒厳令は、国会によって否決され、一夜明ければ戒厳令解除。おそらく大統領は早晩、その職を追われることになるでしょう。NHKのインタビューに応えた、神戸大学教授の解説によると、政治的に追い詰められた大統領が、周囲をイエスマンだけで固め、現実的な思考ができなくなり、北朝鮮の謀略が背後にあると本気で信じて、今回の暴挙に至ったのではないか、とのこと。これでは、YouTube動画で陰謀論を妄信してしまう、そこら辺のジイさんと同じです。

もちろん大統領一人の思いつきではなく、軍や警察など治安に当たる組織の上層部が同調したのは間違いないんでしょうけど、フタを開けてみてば、現場の指揮官が見事にトップの思惑を裏切り、あっさりと国会に議員を入れてしまったのが失敗の原因。まだ光州事件の記憶も生々しいですから、ある意味当然の結果だったのかも知れません。

かたやフィリピンも、決して他所事ではありません。こっちは副大統領のサラ・ドゥテルテが、大統領の暗殺を仄めかし、弾劾を受ける状況となっているし、10年近い戒厳令で独裁をほしいままにしたマルコスは、現大統領の実父。韓国が、国会でのブレーキはあったとは言え、戒厳令発布の権利を大統領に残したままだったのに驚きましたが、ここフィリピンでは、つい数年前にドゥテルテ前大統領が、ミンダナオ限定ながら戒厳令を出したばかり。こちらも、やろうと思えばできる状態なんですよね。

もし同じようなトップの暴走があった場合、フィリピンではそれを止める安全装置的な法律やシステムはあるんでしょうか? 家内曰く「よう分からんけど、最近はアホが多いから、たぶん止まらんと思う」だそうです。怖ぁ。韓国人と違い、歴史から学ぶのがあまり上手とは言えないフィリピン人。マルコス独裁の苦い経験を、若年層に伝えることに見事に失敗してますからねぇ。

そしてわが母国の日本。高校の日本史で、日本で戒厳令があったのは、関東大震災と二・二六事件だけと習いましたが、今回ネットで調べてみると他にもいくつか例があり、かつ、韓国やフィリピン、その他外国と比べたら、厳密な意味での戒厳令とは違うらしい。ただ少なくとも、今の日本国憲法下では皆無。

しかしながら、隣国でこういうことがあると、やはり気になるのが改憲の動き。一般的な解釈として、現行憲法では国による戒厳令を認める「国家緊急権」は無い、とされているんですが、自民党による改憲草案には「緊急事態条項」が盛り込まれ、私個人としては「これはヤバいんじゃないの?」と思いました。

もし緊急事態条項が実現してしまうと、今回のような衆議院での与党過半数割れがあった場合、総理大臣が血迷って「これは某国の陰謀だ、緊急事態だ!」となる可能性も否定できません。今回の韓国での騒動を見て、その思いを強くした次第。

ちなみに、数年前のコロナ禍による緊急事態宣言を、戒厳令と同じだと勘違いしている人がツイッターなどで散見されますが、まったく違います。本気の戒厳令なら憲法が一時停止されて、国家が危険人物と認定したら、その人は即拘束されて軍事法廷送りですからね。


2024年12月2日月曜日

うちのメイドはお金持ち

 今年も残り1ヶ月を切りました。日本ではそれなりに寒くなり、師走の慌ただしい雰囲気になってるんでしょうけど、常夏のネグロスでは相変わらずの季節感ゼロ。9月からクリスマスシーズンのフィリピンでは、今頃になるとすっかりダレダレで、今更年末と言われてもなぁ、という感じです。ツリーを出すのが周囲に比べると遅めの我が家でも、すでに1ヶ月が経過。例年クリスマス明けどころか、1月第2週ぐらいまでは出しっ放しなので、都合2ヶ月半もツリーを眺めることになります。

ところで最近は、選挙や政治、自然災害などのシリアス・ネタが多い当ブログなので、今日は軽い話題を一つ。

メイドとして我が家で働き始めて、かれこれ2年のグレイスおばさん。私よりちょうど10年若い52歳で、わりと最近まで中近東で10年に渡るOFW(海外フィリピン人労働者)を経験した苦労人。その稼ぎで二人の子供を立派に育て上げ、孫も一人います。娘さんのエイプリルは、何を隠そう私のイロンゴ語家庭教師で、息子さんはマニラで働いていて、もうすぐ結婚されるとか。

さてこのグレイス。長年の出稼ぎでの貯金があるのか、あるいは息子さんの送金額が多いのか、一般的にメイドをやってる人に比べれば、経済的には余裕がある。まず着てるものからして、前任者のライラとは大違い。日替わりで、派手なシャツやらスパッツで登場。バッグや時計も安物ではなさそうだし。

出勤前は市役所前の市民広場で、ママさんズンバで一汗が日課のグレイス。露出度の高めのズンバ・ウェアでやって来て、うちのシャワー・トイレ室でお色直しをします。年齢的にも体型的にも、ちょっとイタい感はあるんですが、グレイスに限らずフィリピンのオバちゃんは、そういうことは全然気にしない。

ちなみに、グレイスとエイプリル、その子供の3人は、シライ市内に同居。一昨年、エイプリルは離婚(フィリピンでは法的な離婚 devorce が不可で、別居 separate と称してますが、事実上の離婚)したので、ひょっとする小学生の子供への養育費も、かなりあるのかも知れません。

そんな、一見有閑マダム的な行動パターンだけでなく、買い物を頼んで、少しお金が足りない時など、自分の財布から建て替えたりもするし、日当350ペソに1,000ペソ出しても、ちゃんとお釣りを持っている。もっと驚くのは、たまに家内がうっかり日当を払い忘れても黙って帰って、翌日すまなそうに「昨日、お金もらってないんですけど...。」

ライラだったら想像もできないんですが、要するに懐に余裕があって、現金への執着があまりないらしい。そう言えば、たまにセブやボラカイにバカンスに行くと言って休みを取るなぁ。さらにエイプリルは、毎日のように隣街の州都バコロドに出かけて、友達とお茶やお食事。(それを全部フェイスブックに投稿)

決して浪費してる感じじゃないけれど、どう見てもメイドとその家族の暮らし向きではないんですよね。そう思うのは私だけじゃなく、グレイスの妹で、同じく私の家庭教師であるバンビも驚くほど。

じゃあなぜ、そんなに高くもない給金でメイド業に勤しむのかと言うと、毎日何もせずに家にいたら精神衛生に良くないから。もちろん「お金持ち」はネタで、実際に住んでる家は狭くて古いし、車もない。せいぜい「贅沢しなければそこそこの暮らしができる」程度なので、1ヶ月7,000ペソ(約2万円弱)でも大いに家計の助けにはなっているはず。趣味で働いているわけではありません。

実際の働きぶりも、元来真面目な性格なのか、頼んだことはキッチリこなします。まぁ、余計なことをしないのは、メイド業の基本なのかも知れません。それに加えて、お金に対して淡白なので、数千ペソぐらいなら任せても安心。

メイドと聞くと、つい貧困層出身者をイメージしがちですが、まだまだ格差は大きいながら、10年以上も続くフィリピンの経済成長。コロナ禍を乗り越えての復調ぶりも確かで、低所得者と中間層の間に、以前には見られなかった幅広いグラデーションがある気がします。たぶん、1960〜70年頃の日本も、こんな感じだったんでしょうね。


2024年11月28日木曜日

マルコス対サラ 危ないフィリピン政局


出典:One Network

 いやぁ驚きました。現職の副大統領が「もし私が殺されたら、大統領とその夫人を暗殺するよう、殺し屋に依頼した」と発言したんですよ。さすがにこの破天荒なニュースは、フィリピン国内だけでなく、NHKを始め日本でもかなり大きく報道されたので、フィリピン在住じゃなくても、ご存知の方は多いはず。当然のように、当のサラ・ドゥテルテ副大統領に対して大統領のBBMことボンボン・マルコスは猛烈に反発。刑事告発に向けて捜査が開始されました。

周知の通り、BBMは、かの悪名高いフェルディナンド・マルコス元大統領の息子。1965年から約20年に渡り大統領の座にいて、途中から戒厳令による圧政で国家を私物化。かつては東南アジアの優等生と呼ばれたフィリピン経済を「東南アジアの病人」と揶揄されるまで落ちぶれさせ、多くの国民を投獄・密殺しました。

極め付けは、反マルコスの急先鋒で一時アメリカに追放されていたベニグノ・アキノ上院議員を、帰国直後に空港で殺害。この事件については、マルコスが直接指示を下したかどうかは、今に至るまではっきりしていませんが、国民はマルコスが殺したと信じても無理がない状況。結局アキノ暗殺が直接の引き金になり、1986年、マルコスとその家族はアメリカへ亡命し、政権は崩壊しました。これが世に言うエドゥサ革命です。

その息子がなぜ大統領になり、マルコス一族が復権したかは、何度もこのブログに書きましたので割愛します。

さてその副大統領として、現政権を支えてきたはずのサラ。こちらも大統領の2世で、前大統領のロドリゴ・ドゥテルテの娘。父の前職であるダバオ市長を引き継ぎ、父同様の政治手腕を発揮。彼女の場合、殺されたアキノ氏に代わって大統領になった未亡人のコラソン・アキノ氏が、まったく政治経験がなく目立った成果を出せなかったのに比べ、少なくともリーダーとしての素養は証明済み。

ちなみにサラさんは、一時教育省長官を兼務。教育省(DepED)勤務の家内のビッグ・ボスだったんですよね。家内が言うには、短い在任期間ながら的確な政策を実行し、地方にも頻繁に顔を出し、職員には人気だったそうです。

次期大統領の呼び声も高いサラ氏ですが、ここ最近はBBMとの関係が悪化。報道によると、父ロドリゴの大統領時代の「麻薬戦争」政策での超法規的殺人の責任追及で、BBMが国際刑事裁判所へ協力する姿勢が原因とのこと。これに関してはサラじゃなくても「お前が言うな」とツっこみたくなりますけどね。

まぁ、正副大統領の不仲は、ロドリゴ・ドゥテルテとレニー・ロブレドの時も起こったことなので、珍しくはなかったものの、殺害予告まで出てくると冗談では済みません。しかも今回は、両方とも父が、そこに至るまでの経緯は別として、「人殺し」を命じた張本人。もっと言うと、合法・違法を問わず銃器が流通し、堅気の市民でも数万円から数十万円程度で、殺し屋が雇えるお国柄。サラ氏の発言がどれだけ物騒なのかは、日本人の私にも想像はつきます。

なので、サラ氏が自分の言葉の重大さに気づかず、うっかり口が滑ったとも思えないので、刑事事件になることは十分予測していたはず。おそらく自分に注目を集めた上で、公の場で何らかの暴露なり、BBMとの対決を図るんじゃないでしょうか?

ということで、年末になろうかというこの時期、日本、アメリカで政治の世界が大騒ぎなのに加えて、ダントツにきな臭い局面に突入したフィリピンの政治から、しばらく目が離せません。


2024年11月23日土曜日

生活保護は困窮者のみの為ならず


マニラ首都圏マカティのビル群 出典:マカティ市HP

 ここ最近、フィリピン、日本、そしてその共通の巨大な隣国である中国で、おそらく偶然ではない、治安の悪化が目立っています。

まずは、私と家族の住むフィリピン。もともと犯罪率は高く、警察や役人までが平然と汚職に手を染める体質のお国柄なので、今更...と思われるかも知れません。ただクリスマスを控えてのマニラ首都圏で、日本人が狙われる強盗が7件連続で発生。(2024年11月19日現在)。深夜一人で、観光客然とした格好で歩いていたら危ないのは昔からですが、最近のケースは、複数で比較的明るく繁華な場所にいても襲われているとのこと。

こっちに住んでると分かるんですが、たとえ無言でも日本人観光客って目立つんですよね。どこが?と聞かれると困るんですが、ちょっとした服装の違いだったり、歩き方だったり。長く住んでいる私のような移住者でも、地元にいる時はイロンゴ語(西ネグロスの方言)で話しかけられるのに、たまにマニラやセブに出かけると、タクシーやレジの人に一撃で見破られます。

日本経済が低迷し、日本人観光客の数自体はずいぶん減ってると思うんですが、いまだに日本人=お金持ちというステレオタイプは健在なようです。とは言え、ここまで立て続けなのは、私もちょっと記憶にありません。

次が日本。少し前の「漫画村」「ルフィー」や、このところネットニュースを騒がしている「JPドラゴン」など、犯罪者がフィリピンに高跳びするの事件は、何十年も前からありましたけど、今では単に逃亡先に選ぶだけでなく、堂々とフィリピンを根城にして、犯罪を重ねる日本人の面汚しみたいな輩もいる始末。

さらに末期的なのは「闇バイト」。まず、このネーミングが大問題で、字面だけ見ると、若者を対象にしたちょっと危険なアルバイトのようですが、捕まれば社会人としての将来は台無しになるし、傷害・殺人となると、十年から何十年にも渡っての服役になってしまう重大犯罪。「共犯者募集」ぐらいの強い文言を当てるべきでしょう。

そして一番恐ろしいレベルなのが中国。9月(2024年)に、深圳の日本人学校に通う10歳の男の子が刺殺される、何とも悲惨な殺人事件があり、その後、これまた立て続けに、不特定多数の人たちを、ナイフで刺したり自動車で轢いたりの事件。中国でこの種の犯罪は「報復社会」つまり社会への報復、と呼ばれるそうで、背景にはコロナ禍での過剰なまでの制限と、それに伴う抑圧があるらしい。日本やフィリピンでは、表向きコロナ禍対応は一段落しているのに、中国では深刻な後遺症が続き、経済的に不遇な人々も多い。何といっても母数がデカいだけに、その怨念の総量たるや、想像を絶するものがあります。

この3カ国で共通するのが、社会的セーフティ・ネットが未整備あるいは不十分なこと。この分野では比較的マシな日本ですら、生活保護の捕捉率はわずか2割程度。これは、保護を受けようとすると、まるで犯罪者か何かのように、受給窓口では尋問され、世間的には後ろ指をさされ、徹底的にプライドを傷つけられる文化が理由なんじゃないかと思います。悪しき自己責任論、ここに極まれりですね。

ちなみにコロナ時に、当時の明石市長の泉房穂さんが取った処置は、可及的速やかに困っている人に現金を支給すること。細かい審査や国の対応を待たず、家賃を払えず閉店を余儀なくされている個人商店に即金で100万(給付ではなく貸付ですが)。いちいち各商店の経営内容の審査などしていたら、店が潰れてしまいますからね。でも、これがセーフティ・ネットの本来あるべき姿。受給者が変な罪悪感を持ったりする暇もないほど、事務的に素早く処理するのが正しい。

こう書くと必ず聴こえてくるのが、不正受給が増える、国民の税金を無駄にするな、という声。この手の指摘は、だいたい嫌中とセットになってることが多いですね。でもセーフティ・ネットは、溺れかけている人に差し伸べるものですから、拙速もやむなし。多少の不正は仕方がないと思います。完璧を期するがあまり溺死者続出では、制度の意味がない。

そしてよく考えないといけないのは、結局のところセーフティ・ネットは、困窮者だけでなく、生活保護の世話になってない人の安全も守っていること。誰にも助けてもらえず自暴自棄になって犯罪に走るような人が減れば、治安は回復します。その逆になってるのが、まさに現在の中国でしょう。

ただ難しいのは、セーフティ・ネットのお陰で安全が保たれているかどうかは、判断ができないところ。起こらなかった犯罪の数は、数えることができませんからね。

ということで、国民民主党が公約に掲げ衆院選で躍進の原動力になった「103万円の壁打破」が、現実に向けて動き出したのを見ると、少なくとも日本では、困った人を助ける方向に風向きが変わってきたようです。この政策が実施されそれなりの効果が出れば、セーフティ・ネットの拡充も注目されると期待しております。



2024年11月21日木曜日

生まれて初めて見た火山灰


11月2日 噴煙を上げるカンラオン 出典:Inquirer

 半年ほど前に、爆発的に噴煙を高々と噴き上げ、フィリピン全国レベルの大ニュースとなった、ネグロス島の主峰カンラオン火山。日本の外務省からの注意喚起も出されるほどで、一時は最寄りのシライ・バコロド空港が閉鎖になり、ちょっとヤバいんじゃないかと心配しましたが、ここ最近は平穏を保っておりました。

ところが先月(2024年10月)ごろから、またもや小噴火が頻発。我が家からは50kmの距離があって、煙が見えたりはしないものの、日本の緊急地震警報みたいに、フィリピン火山地震研究所(略称 PHIVOLCS フィボルクス)という所から、全携帯ショートメッセージが配信されます。メイドのグレイスは、これに大音量の着信音をつけているので、多い時など1日に何度も驚かされるハメに。

まぁ同じ島だし、航空便の離発着にも影響大なので、無関心ではいられないけれど、私たちの住むシライ市に直接の被害はないし、何となく遠い場所での出来事のように感じてました。ところが11月の初旬、以前投稿した再就職の件で、バコロド市内に車で出かけた時のこと。朝からお昼前までのミーティングで、事務所前に3時間ほど駐車していたら、愛車のトヨタ・アバンザのフロントグラスにうっすら砂埃。

少し前まで、街中でも未舗装で地面剥き出しの場所がチラホラだったバコロド。さすがに好景気が10年以上も続き、そんな場所も減って、車に砂埃が積もるようなこともなくなったはずが、どうやらこれはカンラオンからの火山灰。

日本でも鹿児島に住んでる人は、日常的な桜島からの降灰を経験しておられるでしょうけど、私は火山が近くにはない、関西出身。40過ぎるまでずっと大阪近辺で暮らし、ほんの1年だけ転勤で横浜に住んで、真っ黒けの地面を見て「これが噂に聞く関東ローム層か!」と感動する程度の火山知らず。あとは子供の頃、観光で浅間山や白根山に行ったぐらい。

なので、実物の火山灰を見るのも触るのもこれが初めて。

書物やテレビ番組では知っていましたが、ものすごく細かい粒子なんですね。まるで日本から持って来て、時々食べ過ぎで世話になる太田胃散みたい。うっすら積もるぐらいなので、事務所からホウキを借りて、チャチャっと車の掃除すればお終いだったけど、これが何十センチも積もったら、屋内にも入ってきて呼吸器系の病気になったりするのも分かります。しかも雨が降ったらどこもかしこも泥だらけ。実際、半年前の大噴火では、付近の農村が泥流のために大被害。

ということで、他人事と思ってたら、シライよりほんの10kmほどカンラオン火山に近いバコロドでは、日々噴火の脅威を感じずにはいられない状況。こうなると、まったく先が読めない自然災害の恐ろしさ。神ならぬ私としては、ひたすら大事にならないことを祈るばかり。

差し当たっては来月、高齢両親の一時帰国と、年明け早々の私のダバオ行きが控えております。どうか往路も復路も無事飛行機が飛びますように。



2024年11月19日火曜日

ネット化?愚民化?兵庫県知事選

 つい先日、日本の衆院選とアメリカ大統領選、それらと比較して2年前のフィリピン大統領選の話を書いたところですが、性懲りもなくまた選挙のお話。

フィリピン大統領選でBBM(ボンボン・マルコス)が当選した背景には、親の代に酷い目に遭ったばかりの歴史に学ぶ事なく、マルコス陣営が用意したネット上のデマ「父マルコスの時代は、フィリピンの黄金時代だった」に、国民の多数がまんまと騙されました。外国人の私からすれば(あるいは、それなりに高等教育を受けたフィリピン国民も含めて)、なぜこの人物を選ぶ?という結果になったわけです。

ところが、まさか日本ではありえないと思っていたことが、私が生まれ育った兵庫県の県知事選で起こってしまいました。フィリピンの場合は、近代の歴史教育を怠ったことによる、フィリピン教育の敗北だったのに対し、今回の兵庫県では、テレビ・新聞などの大手マスメディアの敗北。

原因は明らかに、約10年前の第二次安倍政権の頃から顕著になった、マスコミの政治や選挙への腰抜けぶり。肝心の選挙運動中に、中立を保つという口実のもと、候補者(特に与党の)のメガティブな側面やスキャンダルなどを報じない姿勢を続けて、投票日にだけ大金をかけて速報、特番の嵐。当落が判明してから、今頃それを言うか?みたいな報道ばかりでした。

立法・行政・司法の三権分立に並び立ち、報道が四つ目の独立権力で、健全な民主主義運営のために必要不可欠なのが先進国では当たり前のはずが、日本では大手新聞社やテレビ局が、完全に与党の番犬状態。少なくとも報道の自由に関しては、後進国とされるフィリピンの方がよっぽど先進的。前ドゥテルテ政権の行き過ぎた対麻薬政策に対して、敢然と反旗を翻しノーベル平和賞を受賞したニュース・サイト、ラップラーの編集長ラッサ氏が、その代表格。(フィリピン国内では、ラッサ氏への批判も多いですが)

もちろん日本にも、比較的経営規模の小さな地方紙では、気骨のある記者もいるようですが、全体的には、大局に何の影響もない政治家や芸能人のスキャンダルの、面白おかしく報道する番組や記事ばかりが目立ちます。これはフィリピンにいてもネット経由でだいたい分かる。これでは普通の人たちが、マスコミ不信に陥るのも無理はありません。私など、朝日や読売などのネット記事は、見出しだけ見て、詳しく知りたい時は、ツイッターなどで日頃から信用してフォローしている人の意見を参照しています。

そこにつけ込んだのが、「NHKから国民を守る党」で、政治を引っ掻き回している立花孝志氏。前知事を擁護するためだけに立候補し、お得意のユーチューブを駆使して、一大キャンペーンを展開。そこへ大手メディアにそっぽを向いた人たちが流れ込んでらしい。

私が危機感を持つのは「ユーチューブで真実を知った」と思い込む人が増えること。これでは陰謀論を撒き散らす悪質ユーチューバーが、一国の世論を乗っ取ることだってできる。今回争点になった、前知事の行動にしても、自殺者まで出ているぐらいなので、問題があるのは間違いないのに、大手メディアからは、「パワハラ」「おねだり」など茶化した見出しのコタツ記事が量産されるのみ。本来なら、係者全員に詳細な聞き取り取材を行い、事実関係を詳らかにしたドキュメンタリーをが作られても不思議ではない事件。例えば、かつての首相を退陣に追い込んだ、立花隆さんの「田中角栄研究」。(おなじタチバナ・タカシなのは、何とも皮肉な)

実は、アメリカ大統領選でも、まったく同じ現象が起こったそうで、こちらの場合に影響力を行使したのが、同じくネット経由のポッドキャスト。選挙運動中トランプ氏は、登録者数1,450万人を誇る、人気コメディアンのジョー・ローガンのポッドキャスト番組で政策を語り、若年男性層に大きくアピールしたと言われています。

さすがに今回の選挙結果を受けて、日本の一部ワイドショーのメイン・パーソナリティの中には、反省の弁を口にする人もいるようです。それでなくても全国紙は発行部数を激減させ、テレビ離れも進む中、「若者の〜離れ」なんて言い訳をしている場合ではありません。こうなったのは単純に、信頼できない・面白くないだけ。ただ各紙・各放送局がそれを真摯に受け止めるとは思えませんが。

おそらくこうしたネット上での政治・選挙活動は、今後ますます過熱し、来年の参議院選では、ネット活用に長けた陣営ほど票を伸ばすのは間違いないでしょう。心配なのは、法整備も有権者のネットリテラシーも、まったく未熟なこと。これでは玉石混交も甚だしく、ネットでの情報収集に不慣れな人ほど、不確かな、あるいは明らかに作為的な虚偽に、流されるリスクが高い。

ここで提案したいのは、かつてのアメリカCNNが彗星の如く報道の世界に現れたように、全国紙の販売網や、地上波チャンネルの既得権に関係ない、ネットに特化した、本当の意味での中立を保ったジャーナリズムの登場です。要するに日本版のラップラー。フィリピンの片田舎で私が思いつくぐらいですから、心血注いだ取材結果を上層部に握りつぶされて臍(ほぞ)を噛んでいる、心あるライターや記者の方々は、当然考えておられると思うんですけどねぇ。